感受性という才能(才能、努力、成長を考える③)

才能には様々な要素があります。例えば、野球の投手で言えば、球が速い、コントロールが良い、変化球が鋭い、揺るがない精神力を持っている、打者で言えば長打力がある、芯に捉えるのが上手い、選球眼が良い、守備が良い、肩が強い、ケガをしないなど、同じスポーツであっても、その才能の種類は様々です。

しかし、どのような分野にせよ、備えておいた方が良い基盤となる能力もあるように思います。興味深いことをタレントであった島田紳助さんが著書で書いています。

これも才能なんだけど、ひとつに感情の起伏が激しくないといけない。いつでも「感じ」なければいけない。僕が経営している「バー はせ川」という店ではライヴをやっている。そこで最近ひとつわかったことがあります。「はせ川」には何人かのシンガーがいて、中でもRYOEIというやつはめちゃくちゃ上手い。あまりにいい歌を歌うから、時々、泣いてしまうお客さんもいます。

そこにはタレントも遊びに来てくれるんですが、普通のお客さんよりもタレントの方がよく泣くんですね。そして売れているタレントほど、よく泣くという法則があります。

この間もフットボールアワーの後藤輝基がずっと泣いていました。RYOEIの歌を聴きながら。他のお客さんは誰も泣いていないんだよ。そんな中で、後藤だけがずっと泣いている。僕たちがそれを笑うと、後藤も笑いながら泣いている。「なんで僕、泣いているんですかね?」「何で僕、こんなに涙がとまらへんのですかね?」って。本人もわからないんですね。

笑福亭笑瓶とガダルカナル・タカがふたりで来て、あいつらなんてもうおっさんなのに、それでも泣いていましたね。一方で、小池栄子みたいな若い女の子も一曲目から泣いていました。

(引用:島田紳助「自己プロデュース力」ヨシモトブックス P84-85)

タレントはメディアを通じて、受け手に何らかの感情を与える人たちです。つまり、心に響かせることを生業にしている人たちで、それには理屈でものを表現するよりも、感性で表現した方が相手に伝わるものがあるのだと思います。感性で受け取る行為というのは、そのような人たちにとって自然に身体に染みついていることなのかもしれません。

芸術家と呼ばれる人たちも、人前で泣くかは別にして、このような要素を多く持った人たちのように思います。

僕たちが考えているよりもはるかに多くのことが「感性」や「感情」で動いています。AppleのiPhoneやiPadがここまで世界で受け入れられた要因に、創業者のスティーブ・ジョブスの感性が大きく働いていると言っても、否定する人は少ないと思うのです。

会社のプレゼンテーションも決定的な判断事項がなければ、最後は相手の心に響くかどうかの問題だと思います。営業だって、この人やこの店なら買いたいと感情が決め手になっていることが珍しくありません。

固い理屈で動きそうな経済ですら感情で動くとよく言われます。いくつかそれをテーマにした書籍も出版されています。

いずれにしても感受性というのは、どのような分野でも優れた結果を残す上で大切なもののように思います。「感性」や「感情」は人間の原動力になるものであり、自分も他人も動かす力となります。そして人間を動かすということは社会を動かす可能性も秘めています。そのような感性と感情を敏感に感じ取る能力が感受性と言えます。

感受性はそれを持っていたとしても、何か結果に直結するわけではありません。感情が不安定な人はよくいますが、そのような人はむしろ優れた結果とは対極の位置にいます。それは感情に自分をコントロールされ過ぎているとも言えます。

才能がある人、結果を出せる人というのは「高い感受性を持ちつつ、それを自分の分野や目標に有効に結びつける能力も持っている人」と言えるでしょう。

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兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。