血液型と性格

僕の知人には血液型と性格の関連を強く信じている人がいます。「あの人は○型だから」とよく会話に出ます。僕の血液型はA型で、本ではよく「内気で神経質、大人しい」と書かれています。しかし、実際には感情の起伏が激しいようで、一部の知人からは「気分屋」と指摘されます。

こう言うと血液型と性格は関係ないようですが、僕の性格を「気分屋」と指摘するのは、決まってA型なのです(笑) ある時、自分とプライベートで付き合いのある友人の血液型を調べたら、A型がほとんどで、O型が少数、B型が1人という結果になりました。もともと分布に差があるとは言え、これだけ偏ると何か因果があるのかと考えてしまいます。

一般的には「血液型と性格(あるいは気質)の関連には科学的な根拠はない」とされています。それでも、世の中に血液型と性格(この記事では「性格」に「気質」の意味も含めるものとしてください)を取り扱った本が多いですし、話す人も多いように思います。

「科学的根拠がない」という背景を調べたくて、アマゾンで「血液型」についての書籍を検索してみたのですが、探しているような本はありませんでした。「血液型研究の歴史」みたいな本が出てくると思ったのですが……。

しかし、それに近いことが書いてありそうな本は見つかりました。「血液の不思議 Part2」(ブルーバックス・高田明和著)、「『血液型と性格』の社会史」(河出書房出版社・松田薫著)の2冊です。

「血液の不思議 Part2」によると、血液型と性格について日本ほど大きく関心を持っている国は他にないそうです。欧米では研究や報告はほとんど見られません。ただし、一部の病気の発症率と血液型に相関はあったという報告はあるようです。さらに次のように述べています。

血液型物質は不思議なことに、脳には存在しません。また、脳と血液の間には、血液・脳関門という関門があり、血液成分はほとんど脳組織には入り込めないようになっています。つまり、血液型物質が神経に接触する機会はないのです。したがって、血液型が性格と関係するということは非常に考えにくいということになります。

「海外では血液型と性格の関連についてほとんど論じられていない」というのは驚きであり、疑問でもありました。興味がある人間としては、自然とそれを研究する人間がいても良いのではないかと思ってしまうからです。そのような疑問に対する答えがないか、「『血液型と性格』の社会史」を読んでみました。

血液型の存在が発見されたのが1900年(明治30年)、ウィーン大学の病理学教室の助手だったK・ラントシュタイナーによるものです。翌年、彼は血液型にA、B、Cの三つの型があると論じ(Cは後のO型)、1902年にはラントシュタイナーの弟子たちがAB型を発見します。

その発見以前から血液について研究していたドイツのデュンゲルン博士は民族ごとに多い血液型について調査して、白人はA型が多いとしました。また、博士は動物の血液についても造詣が深く、動物の血液型はB型が多いともしています。ダーウィンの進化説と絡めて、進化していくにしたがい、人間はA型の比重が多くなっていったのではないかと考えました。

血液型の分布はその民族の進化の度合いを表すとして、これをテーマにした研究はしばらく続きました。当時、博士の研究室にいた日本人も血液を採取されて、B型が多かったそうです。当時は白人社会が科学において断然進んでおり、そのような論旨が取り上げられるのも時代的背景があったのだと思います。

海外では血液型と性格の研究はされていないとのことですが、このような進化的な観点や病理学、形態学(身体の形態に差がないのか)などは研究が行われているようです。

さて、博士の研究室に原来復という日本人医師がドイツ医学を学ぶために留学していたのですが、原が帰国することで日本にも血液型の知識が広がっていきます。原は後に長野日赤病院に赴任し、そこで長野県での血液型の分布を調査しました。結果はA型が最も多いというのは欧米と変わらなかったのですが、ドイツで聞いたのと同様にB型の比率が日本の方が多いのも事実でした。その結果は地方紙「信濃毎日」に「一滴の血」という題で大々的に取り上げられています。

現在では馬鹿げた話と一笑に付されるでしょうが、B型は動物に近いということで、A型に比べて劣っていると推論されかねない研究状況でした。B型の比率が多いというのは、原医師にとってショックな結果だったのかもしれません。原来復は後に長野日赤の院長を勤め、1922年(大正11年)に41歳で亡くなっています。

その後、日本では血液型と性格との関連が大きな話題になります。街には血液型占い師が現れ、もし、性格や気質の違いが血液型でわかるなら利用価値があると、軍隊も研究に関心を持ちました。

しかし、大きく取り上げられたものの次第に反論が強くなり、この研究はあっという間に下火になります。血液型と性格についての研究は実は昭和初期に多くが終わっています。その時、反論側に「今日まで行った研究により、気質そのものと血液型との関係存在を否定するものではない。ただ科学的根拠に立つ気質の分類法および科学的調査の結果による成績でなければ、余等は賛同することはできないのである」という言葉があり、これが全てを表していると思います。

血液型については科学的に区分ができる事象ですが、性格や気質についてはどんなに検査方法に留意しても、あくまで主観的なものです。それをいくら分類しようとしても、いつまでも経っても客観的にはなりません。特に性格や気質などはその他の現象で置き換えることができない複雑なもので、そこが人々が興味を持つ対象であり、最後まで研究を難しくする原因となったのです。

ただ、日本で血液型と性格の関連が騒がれる前から、大家族の兄弟で血液型が違う子供だけちょっと性格が違うと思っていた人はいたようです。そのように感じる人が多かったから、研究する人も出てきたのだと思います。

残念ながら科学的に証明できる内容ではないので、今後も研究が盛んになることはないでしょう。しかし、脳のリンパ系は長い間存在しないと言われていましたが、つい最近になって存在が確認されました。科学的な常識であっても、覆るのはよくある話で、いつか血液型と性格の関連が証明される日も来るかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUTこの記事をかいた人

兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。