逆境を乗り越える心の整え方

生きていると多くの逆境に突き当たります。

徳川家康は「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」との言葉を残しています。現在の世の中は戦国時代とは違いますが、やはり生きる上で多くの苦しみを経験します。しかし、その逆境を克服することで人間は大きく成長することができます。名を遂げた人や、良い人生を生きてきたと思える魅力的な人は、このような逆境を数多く乗り越えてきた人なのではないかと僕は考えています。

そのような人たちは、様々な処世訓と言いますか、心を保つための対処法を自然に体得しています。他人に害を与えたり、自分に無理を強いる方法はいけませんが、それぞれ自分に合った方法で「心の整え方」を持っておくことは大切だと思います。

心の持ちようで逆境の捉え方がずいぶんと変わります。もちろん、気持ちだけで全てが好転するわけではありませんが、苦痛を軽くすることはできます。

「若い時の苦労は買ってでもしろ」と言います。確かに逆境を経験していることは、後々の人生で生きていきます。ただ、その時に人生を悲観し過ぎたり、自分にネガティブなイメージが染みついたりすると、その後にマイナスの作用が生まれます。卑屈な性格が染み付いたり、他人を信頼できない性格になったりして、せっかく逆境を乗り越えたのに、ただ歪んだ人格が残っただけということになります。

そんなことにならないためにも、心を上手く保つ方法を身に付けておきたいところです。今回は人生の逆境に苦しんでいる人のために、それを乗り越える「心の整え方」について一緒に考えていきたいと思います。

受動的逆境と能動的逆境

逆境にはふたつの性質があると僕は考えています。「受動的な逆境」と「能動的な逆境」です。この言葉自体は僕の造語ですので、気にしないでもらって良いのですが、逆境を乗り越える思考をまとめようとすると、この異なるふたつの性質を理解しておいた方が良いと思います。

受動的逆境は、職場に困った上司が来たとか、問題の多いお客様の担当になったとか、子供の受験が上手くいかないとか、同居している姑との関係が悪いとか、自分から特に何かを望んだわけではないのですが訪れる逆境です。本人からすると、自分に原因なく突発的に逆境が降ってきたように感じます。

能動的逆境は、起業したけど上手くいかないとか、スポーツでなかなか練習の成果が出ないとか、仕事で大きなプロジェクトを任されたけど、取引先との交渉が上手くいかないなど、自分に何か明確な目標があって、そこに進む過程の障害として起こる逆境です。本人からすると自分が進んでいる先に起こっているので、受動的逆境のように突然という感覚はありません。

前者はほとんどが時間が経過するに従い、消えてなくなっていきます。よそから来た上司なら、いつまでも同じ部署にいるとは限りませんし、姑なら亡くなれば終わります。受験も合格にせよ不合格にせよ、受験が終わればなくなります。しかし、受動的逆境の問題は、あくまで外部が問題のきっかけになっているため、自分が解決に影響できる要素が小さいです。

後者の場合は、自分の内部に何か欲求があり、それがもとで起こっています。速く走れば、その分空気抵抗が強くなるのと同じです。その場合、欲求が達成されるか諦めるかしない限り、なくなることはありません。しかし、自分の関与次第で解決する確率は高くも低くもなります。

また、それらが両方が混じって現れることもあります。先ほどの受験の件で言えば、親から見ると受動的要素が大きいですが、子供については能動的な要素が大きくなります。起業して上手くいかないことは基本的に能動的な逆境ですが、例えばリーマンショックのような一見自分と関係ない原因によって起こるトラブルは、受動的逆境の要素も含んでいます。

このような逆境の性質によって、心の持ち方も変わってきます。「受動的」「能動的」という言葉を考える必要はありませんが、自分が迎えている逆境がどのような性質のものか認識しておくと、考えの整理がつきやすいと思います。

受動的逆境を乗り越える心の整え方

時間が経てば消えてなくなる

前述のように、受動的な性質を持つ逆境は、時間が経てば自然に消えてなくなります。永遠に続くことはありません。1年ほど前に悩んでいたことを思い出せるかと言えば、思い出せない人がほとんどだと思います。その時は重大事に思っていても、時間が経ってみると大したことがなかったとか、不安に思っていたことが起こらなかったとかが意外に多いのです。

「降り止まない雨はない」とよく言います。まず、どのような逆境もいずれ必ず終わりが来るということを心に刻んでおきましょう。

しかし、困るのはその問題がどのくらい続くか目処がつかない時です。上司がいずれいなくなると言っても、姑がいずれ亡くなると言っても、それはいつか分かりません。

いつ終わるかわからないことに耐え続けるのは苦痛です。そこでどのように考えるかで、人生が変わってきます。それではその選択肢について考えていきましょう。

待つのか、立ち向かうのか、逃げるのか

逆境に対して自然に解決されるのをひたすら待つ方法もあれば、問題を積極的に解決していくという方法もあります。

後者の場合、上司にどうしても我慢できなければ、さらにその上の上司に訴えるとか、転勤願いを出すとか、会社自体を辞めるなどの方法が考えられます。姑であれば関係を絶つことも考えられます。そこまでいかなくても距離を置くのも方法です。

それらはとてもエネルギーを使う上に、必ずしも好転するとは限りません。しかし、もし自分の精神を正常に保つことが難しいのであれば、何らかの動きをする必要があるでしょう。

僕がどうしても合わない上司と一緒だった時は、仕事をたくさんもらい、なるべく外回りの時間を増やすようにしていました。そのうち、僕が転勤となり、その上司から離れることになりました。

同じ会社に勤めていたある人(仮にAさんとします)は「上司が嫌というだけで、他に問題がないのに辞めるのは勿体ないと思うんですよ」と話していました。その人の上司は会社でも有名なトラブルメーカーで、その人のために過去に何人も会社を辞めたと言われていました。Aさんも仕事を増やして、その上司と一緒に過ごす時間を減らしたと言います。

そして、上層部も問題と考えたのか、その上司は現場から離れることになり、Aさんも解放されることになりました。

自分が人生を選択できるという意識を持つ

基本的に受動的な逆境というのは、原因が外部にあり解決が簡単ではありません。

能動的な逆境については、自分が変わることで問題の打開がはかりやすいですが、受動的な逆境は原因が外部にあり、自分が変わるだけでは問題が解決できない場合も多いです。

それでも大切なのは、自分で人生を選択しているという感覚を持ち続けることです。

受動的な逆境の原因が外部にあるのは事実ですが、それが自分に全く関係なく起こっているかというとそうではありません。

上司に問題があるとしても、もともとその会社で働くことを選んだのは自分ですし、姑にしても、もともと旦那様を選んで結婚したのは自分です。会社に残る道も出て行く道も選ぶことが出来ますし、姑と旦那様についても、一緒にいても決別しても自分次第です。

戦争中に収容所に送られたり、自然災害に遭遇することまで、その人の責任とは言いませんが、現在の自分の人生は、基本的に過去にした選択の積み重ねの末にあると言えます。

逆境においても、人生の選択は自分で行えます。それを忘れてしまうと、被害者意識が強くなったり、自信が持てなかったり、卑屈になってしまったりと、本来の精神を保てなくなります。

そうすると、他人との関係が上手くいかなかったり、仕事でミスが増えたり、2次的な問題が起こってきます。そうなると逆境云々ではなく、自分への信頼や評価が下がっていきます。そうならないように心を整える必要があります。

時には他人に助けてもらう

逆境の時は精神的な負担も大きく、1人で抱え込むことが辛くなることもあると思います。そのような時は素直に助けを求めても良いと思います。

ある知人はどうしても辛くなった時、「そんな時は友達に『お願い、聞いて』と電話をかけまくる」と話していました。

ただし、建設的な話もなしに何回も愚痴を話すのはよくありません。最初のうちは同情して聞いてくれても次第に相手は苦痛に感じてきます。

相手の許容をわからずに話してしまうというのは、すでに精神的なバランスを保てていない裏返しです。自分の精神状態をかえりみる必要があります。

また、悩んでいる問題は胸に抑え込んでいるのに、感情が不安定になって周囲に影響を与えるのもよくありません。周囲はそれでは力を貸そうにも手を出すことができません。

「助けて」と素直に言った方が、周囲も接しやすいのですが、このような受動的な逆境に苦しみ続ける人というのは、このように素直に助けを求められない人に多い気がします。

自分を見失わない

今までの内容にも通じることですが、受動的な逆境で1番怖いのは自分を見失ってしまうことです。最初は外部からの影響で苦しんでいたのに、その苦しむ時間が長く続くことで、精神的安定が保てずに性格が歪んでしまうことがあります。逆境を天気で表現すると、曇りや雨のように思います。太陽が自分です。いくら厚い雲に覆われていても、太陽が輝きを失わなければ必ず晴れの日がやってきます。しかし、太陽が自らの輝きを失えば雲がなくなっても光りを放つことはできません。自分の輝きを失わなければ、必ず逆境を抜け出す時がやってきます。そのように考えて自分を見失わないでほしいと思います。

能動的逆境を乗り越える心の整え方

大きくジャンプするための準備と考える

多くの成功者が語ることですが、逆境は単独ではやって来ません。経験から、その後にそれ以上の好機が訪れると話しています。それは運勢のバイオリズム的な意味合いもあるのかもしれませんが、逆境を脱するために熱心に考えることで、普段よりも大きな力を発揮するということもあるでしょう。

あらゆる逆境には、必ずそれと同等か、それ以上の成功の種が隠されています。このことを幾度となく身をもって体験してきました。自分の力で逆境を乗り越え、それが成功につながった。何度かこうした経験を積み重ねていくと今度は逆境が好きになります。新たな逆境が訪れると、「おお、またチャンスが来た」と思えるようになります。(P111)

人生には、苦痛と快感が交互に訪れ、そのなかでひとは成長していきます。苦痛だけ、快感だけの人生などありません。(P114)

(引用:青木仁志「一生折れない自信のつくり方 文庫版」アチーブメント出版株式会社)

また、大きく上昇する直前には不運なことが多いとの話もよく聞きます。大きくジャンプする時にかがむ必要があるように、運においてもそのような上下があるのかもしれません。

何か目標に向けて頑張っているのであれば、将来、同じように苦しんでいる人に対して、アドバイスすることができます。そのように考えて、苦しい時の心境や工夫、克服する過程を記録に残しておくのもひとつの方法です。

僕は貯金が1500円しかなかった時期もありますが、その時の通帳を写真に残しています。いつか誰かにアドバイスできる立場になった時に、ネタにしようと考えています。

さらに努力を重ねる

能動的な逆境は、自分が高みに上ろうとすることで起こります。それを克服するには欲求を達成するか、あきらめるかしかありません。

ごく当たり前の考えですが、達成を目指すための努力を積み重ねるというのも方法の1つです。過去の多くの名を遂げた人たちが、努力について言及しています。

「努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのならば、それはまだ努力と呼べない」(王貞治)

「目標を達成するには、全力で取り組む以外に方法はない。そこに近道はない」(マイケル・ジョーダン)

「天才とは努力する凡才である」(アインシュタイン)

がむしゃらに努力をすれば良いというものではありませんが、目標達成に向けて近づく取り組みは必要でしょう。

広い視点から見つめてみる

目標に向かって努力を重ねている時、必死であればあるほど、視野が狭くなりがちです。

目標を達成できなかったら、人生が終わりくらいに考えてしまいがちですが、多くの場合、実際にはそのようなことはありません。

他の道がないと思うくらい集中することはメリットもありますが、視野が狭くなることで解決策が見えなくなるデメリットもあります。固執することで、他の可能性を閉ざしてしまうこともあります。

甲子園を目指していた高校球児が予選で敗れても、東大を目指していたのに受験で失敗しても、会社で出世争いに敗れても、それはたいへんなショックだと思いますが、全ての希望が閉ざされたわけではありません。

野球は大学や社会人でもできますし、東大に受からなくても他の大学もあります。東大にもう一度挑戦する道もあります。一度、出世争いに敗れたからと言って、身を立てる手段が全てなくなったわけではありません。巻き返したり、違う分野で大成した人も多くいます。

道が閉ざされてしばらく経った後にはじめて冷静になり、打開策が見えることもあります。

どんな人も最終的には「幸せになりたい」「自己実現したい」「世の中で自分の力を発揮したい」などと考えていると思いますが、いつの間にか、その手段である目標で思考が止まってしまいがちです。

野球で言えば、一生を通じてどのようにプレーできるかもひとつの視点であり、受験にしても、大切なのは大学の先にあります。大学の先に見えているものは、ひとつの道でしか達成できないのでしょうか?

あるひとつの道にこだわっても、別の道を模索しても、それはその人の選択であり、その人の人生です。

しかし、色々な選択肢があるのは事実で、一度肩の力を抜いて、自分が本当にしたいこと、たどり着きたい未来と、今歩んでいる道を振り返ってみることは良いのではないでしょうか?

結局は自分を見失わないことが大切

今までの話と重なる部分がありますが、逆境は視野が狭くなりがちで、広い視野で物事を見ることが難しくなります。

余裕のある時であれば、簡単な気配りや配慮ができなくなる危険があります。苦しいあまりに家族や友人を疎かにしてしまったり、会社で周囲の迷惑をかえりみなかったり……。

逆境を克服した時には、自分の周りに何も残っていなかった、というのでは苦労して頑張ってきた甲斐がありません。

時々立ち止まって、逆境を乗り越えるのは何のためか考えるべきです。つまり初心に帰るということです。

まとめ

逆境を乗り越えるための心の持ち方、整え方についてまとめました。逆境と言っても、その性質は様々であり、どのように乗り越えるかは、その人の価値観や置かれた状況でも変わってくるでしょう。

しかし大切なのは「終わらない逆境はない」とあきらめないことです。そして、自分を見失わないことです。自分の良さが失われない限りは、必ずトンネルを抜ける日が来ると思います。少しでもこの記事が逆境に苦んでいる人の役に立てば幸いです。

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ABOUTこの記事をかいた人

兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。