孤独と生きるために ⑧書籍紹介

今回はこれまでのシリーズ記事「孤独と生きるために」で引用、参考にした書籍を紹介したいと思います。書評についてはあくまで僕個人の主観ですので、それを理解の上で読み進めてください。

孤独の科学 人はなぜ寂しくなるのか

著者:ウイリアム・パトリック、ジョン・T・カシオポ
訳者:柴田裕之
出版社:河出書房新社
出版年:2010年
備考:2018年に文庫版が出版されています。

「孤独」に関連する書籍は、個人的な孤独の克服法やその過ごし方の効用について書いたものが多く、それはそれで価値があるのですが、ブログを書くにあたり、客観性という部分で1冊軸になる本が欲しいと思っていました。

「孤独の科学」という題は僕が望んでいたそのもので、記事を書く上で大きく役に立ってくれました。内容としては心理学や社会学での研究成果が中心になっており、脳科学や生理学での知見はあまり多くありません。前頭前野と孤独の結び付きについては納得できるものでしたが、前頭前野の機能である「実行制御」「自己調節」という言葉を使いながら、それに関する定義も明確でなく、「科学」と言う割には曖昧な部分が多いように感じます。さらに言うと、孤独とはあまり関係なさそうな知見も多く書かれていて、論点がぼやけているようにも思いました。

また、多くの人が知りたいであろう孤独の克服方法についても、それほど多くページを割いていません。しかし、それはこの書籍だけではなく、個人の主観的症状である孤独に対して、一般論として治療を記載するのは難しいのではないかと思いました。

欠点もあるのですが、事実としてこれだけ孤独について多くの知識を蓄えている書籍は他になく、孤独について分析する上で有用な書物なのではないでしょうか。実用というより知識を得るための本だと思います。

自立と孤独の心理学

著者:加藤諦三
出版社:PHP研究所
出版年:2010年

この書籍は最初に1988年に出版されていて、2010年に新版が出版されています。新版の方は表紙が靴(靴下?)の絵で「新版」と小さく書かれています。旧版と新版の内容が全く同じか、新版の方が容量が増えているなら良いのですが、旧版に比べて新版はページ数も少なく、内容においてもいくらかカットされています。購入の際はこれを了承の上で選択してください。

内容はジョン・ボウルビィ(1907-1990)の「愛着理論」を軸にしていて、繰り返しその理論を事例に当てはめているような構成です。いわば全編を通じて同じ内容を書いているとも言えます。もちろん全ての人に当てはまるわけではないでしょうが、幼少時の愛着の欠乏が大人になっても大きな影響を及ぼすという内容は非常に説得力がありました。僕個人としては幼少時の影響は強いにしても、全人生を通じて強いトラウマが人格において影響を及ぼすのではないかと考えています。

あとがきには「そして私がこの本を書いた目的は、その不安を解消するのがいかに難しいかということを力説するためではない。実際に不安を解消するためにはどうしたらよいかという問題意識で書いたつもりでいる。それだからこそ安易な方法は書かなかった」と書かれていて、実際に孤独の具体的な解消方法は書かれていません。しかし全編通じて読むと、その解決方法を自分で考える材料はくれているようにも感じます。

kotoba 2019年冬号 孤独のレッスン

出版社:集英社
出版年:2019年(季刊誌)
副題に「孤独のレッスン」と付けられています。アルベール・カミュ、永井荷風、エドガー・アラン・ポー、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト、サン=テグジュペリ、三木清、ヘンリー・ソロー、ニーチェ、寺山修司などを取り上げて、その孤独との関わりについて、それぞれ評論が書かれています。

孤独のレッスンと書かれていますが、孤独について実用的に克服法を教えてくれるような内容でなく、それぞれの文筆家たちの人生を通じてエッセンスを読み取るような構成になっています。それら作家について興味がある方でしたら読んでみても面白いと思います。

“この自信”を持てばうまくいく 努力がすぐに結果になるたった1つのルール

著者:倉成央
出版社:PHP研究所
出版年:2013年

孤独とは直接関係ない書籍なのですが、トラウマの解消方法についてシンプルで具体的な方法が書いてあったので今回参考にしました。

能力が十分あるにも関わらず相応の結果が出ない人について、「潜在的な部分で自信がない」→「過去のトラウマが原因になっている」という論旨の本です。このような悩みがある人にとっては興味深い内容だと思います。

まとめ

シリーズ記事「孤独と生きるために」を書く上で引用、参考にした書籍を紹介しました。このように並べてみると、思ったより紹介できる本が少ないと気付きました。「孤独」とフレーズが付いた本は多いのですが、それぞれ著者の主観によるところが大きく、客観性という上で参考にできる書籍が少なかったのだと思います。

また、今回は「後天的因子による孤独」を中心のテーマにしていて、環境や加齢による要素は割愛しています。例えば、五木寛さんの著書などもここに含まれていて、今回は参考文献としては取り上げませんでした。

それぞれの著者の孤独の経験は読む上ではとても興味深く、孤独に苦しんでいる人にとっても参考になると思います。いずれこのブログでもそのような本の書評も書けたらと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUTこの記事をかいた人

兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。