2020年7月1日、Amazonにて自著『流れる雲を友に 園井恵子の生涯』が発売されました。Kindle版(電子書籍)、オンデマンド版(紙の書籍)の両方が用意されています。
園井恵子さんは死後70年以上経過した現在でもメディアでその名前を取り上げられる稀有な存在の女優です。新聞やテレビだけではなく、2019年、宝塚歌劇団の発展に貢献した生徒やスタッフを顕彰する「宝塚歌劇の殿堂」に園井さんが加えられたのは記憶に新しいところです。また、2020年7月31日公開予定の大林宣彦監督の映画『海辺の映画館 キネマの宝箱』では園井さんが所属した移動劇団「桜隊」が登場します。おそらく園井さんも登場するのではないかと思います。
参考記事:「園井恵子という女優」2019年8月4日
その悲劇的な人生が人の心を引きつけるのか、故郷の岩手県には今もメディアや教育機関の方が多く取材に訪れています。それだけの人物にも関わらず、園井恵子さんにはその生涯を記した評伝、伝記的な書籍が今までありませんでした。
今回出版された『流れる雲を友に 園井恵子の生涯』は、彼女の人生を記した伝記・評伝であると同時に、この1冊で研究資料や足跡をたどる旅のガイドブックとしても役立つように多くの情報が盛り込まれています。
今回、この書籍の魅力や特徴についてブログを通じて紹介したいと思います。
本の基本構成
ページ数:280(オンデマンド版)
写真数:83(Kindle版、オンデマンド版)
価格(税込):1800円(Kindle版)、2200円(オンデマンド版)
※Kindle版は見る端末によって表示の様式やページ数が変わります。
A5版と一般的な文芸書よりもサイズが大きめになっています。カバーはなく、外側の少し厚い紙に直接印刷された外装です。
ページ数は280ですが二段組にしているので、一般的な書籍の500ページ分ほどの内容です。写真の多さも特筆すべき点だと思います。プライベート、舞台、ゆかりの地、貴重な地図資料など計83点の写真を収録しています。園井さんの人生をイメージする上で大きな手助けになるでしょう。

一般書より少し大きめのA5版

表紙が直接印刷されたペーパーバック

二段組みの紙面(オンデマンド版)
プリントオンデマンド版の略。一般的に出版される書籍がまとめて大量に印刷、製本されるのに対して、オンデマンド版では発注に合わせて1冊ごとに印刷、製本が行われます。そのため、在庫を抱える必要がなく、出版、販売する側としても負担を減らすことができます。デメリットとしては、一冊のコストが高くなる点と、一般的にペーパーバックにしか対応していない点が挙げられます。
『流れる雲を友に 園井恵子の生涯』の特徴
園井恵子はじめての伝記・評伝
園井恵子さんの書籍と言うと、出生地である岩手県松尾村(現在の八幡平市)が平成3年に編纂した『園井恵子・資料集』がまず挙げられます。関係者の証言や寄稿をまとめて巻末には年表も付いた貴重な本で、今回の執筆でも中心的な資料として活用させてもらいました。
ただ、本の性質上、彼女の生涯を時間に沿ってたどるものではなく、私自身、その人生の全体像をつかむまで何度も読み込む必要がありました。もう少し入門書的な本があれば良いのにと思っていました。
そのような当時の思いもあり『流れる雲を友に 園井恵子の生涯』は、はじめて園井さんを知ろうとする人が手に取りやすいスタンダードな伝記・評伝を目指しました。
プロローグ
第一章 岩手 緑生まれる大地に
第二章 小樽 女学校時代
第三章 夢への旅立ち
第四章 宝塚音楽歌劇学校時代
第五章 舞台デビューの頃
第六章 星組の誕生
第七章 少女歌劇のスターとして
第八章 さらば宝塚
第九章 新劇と映画の世界へ
第十章 しのびよる闇
第十一章 移動演劇の日々
第十二章 広島への道
第十三章 桜隊
第十四章 八月六日
第十五章 夢の終わり
エピローグ
あとがき
主要参考文献
園井恵子ゆかりの地の案内として
本書は園井さんの伝記・評伝であるとともに、取材の足跡を記したルポルタージュ的な要素もあります。そこには故郷の岩手県、女学校時代を過ごした北海道・小樽、青春を過ごした宝塚などを実際に歩き、多くの旧跡を訪ねた記録が含まれています。
園井さんが生きていたのは戦前ですから、旧跡も当時の面影を残しているものばかりではありません。地名や住所の表記が変わって、どこの場所を指すのかわからないことも多々ありました。
そのような現在に残る園井さんゆかりの場所について多く紹介しています。はっきりした場所が不明な場合には、文献をもとに推測したプロセスも合わせて紹介しています。この書籍と当ブログを合わせて読むことで、園井さんの旧跡を巡ることもずっと容易になるでしょう。

Kindle版の紙面から。岩手川口駅前の現在の様子(左)、取り壊された最初の住居(左上)と現存する二軒目に当時新築した住居(左下) ※Kindle版は使用する端末により紙面の表示が変わることをあらかじめご了承ください。

Kindle版の紙面から。かつて園井恵子が足を運んだ水天宮(右)、小樽市立菁園中学校(園井さんが通った小樽高等女学校跡地)から眺めた小樽の風景(左)
「園井恵子ゆかりの地を巡る ~岩手県編」 2019年8月7日
「園井恵子ゆかりの地を巡る ~小樽編」 2019年8月8日
「園井恵子ゆかりの地を巡る ~宝塚・神戸・大阪編」 2019年8月9日
「園井恵子ゆかりの地を巡る ~鳥取編」 2019年11月25日
園井恵子研究の資料として
本書では著作権をクリアした上で、様々な文献から写真を引用しています。園井さんが生きていた時代やその周辺の様子がより伝わるだけでなく、資料として貴重なものもあります。

オンデマンド版78-79ページより。当時の宝塚音楽歌劇学校の寄宿舎を写した珍しい写真。(本写真は原稿をPDFにしたものです。実際の書籍と印象が違う場合があることをあらかじめご了承ください)

オンデマンド版220-221ページより。移動劇団「桜隊」が広島で宿舎にしていた建物。原子爆弾により全壊した。
本書では多くの資料を読み込み、文章と写真をところどころで引用していますが、煩雑にならない程度で出来るだけ引用元、準拠を明示するように留意しました。
園井さんの伝記・評伝が今まで書かれなかった理由として、その人生の中で詳細が分からない空白の期間が多いという点が一つあります。その部分を埋める作業として多くの文献を読み当たりましたが、当時に生きていた人間が証言できない以上、最後は最も真実に近いと考えられる推測や仮説に委ねるしかないというのが現実です。
今回、資料を調べる中で、明らかに真実から離れた内容がネットを介して公表されているのを目にしました。それは社会的な立場のある著明な方が発信しているものもあり、後世に残すには憂いを感じずにはいられませんでした。
他の記事で触れましたが、一時期は世の中から忘れかけられた園井恵子さんが再び思い起こされることになったきっかけは、小学校高等科時代の友人・渡辺春子さんのラジオ放送局への寄稿で、その動機にはある雑誌の記事がありました。苦楽座(移動劇団「桜隊」の前身)で一緒だった徳川夢声が園井さんの臨終の間際を書いたもので「『それはもう、私らも見てはおられんでした。あのたしなみの好い園井君が、股もなにもオッぴろげて、七転八倒でしたからね』と、高山トウさんは帰京してから私に報告した」「高山ママさんが、夢中になって頭をふる園井君の、髪の乱れに、櫛を入れてやったら、ゾロリゾロリと毛がぬけてしまった。ろうたけく美しき吉岡夫人は、四谷怪談のお岩さんとなって悶死した」などと書かれていました。この記事については他の証言者から事実と違うと指摘を受けています。
事実の隙間に想像や空想を思い巡らせるのは作家や人々の守られるべき楽しみだと思いますが、他者を書く以上はある程度の道義や責任が伴うものです。この書籍を出版するに当たっては、文献や証言に拠るものか私の推論か読者に伝わるようにして、園井さんに興味を持った人にできるだけ標準的で客観的な情報を提供したいという思いがありました。読み物として入口になると同時に、今後さらに知識を深めたい人にとって資料としても質の高い書籍でありたいと考えました。

オンデマンド版276-277ページより。主要参考文献の一部
巻末の主要参考文献は123に及びます。一般書から雑誌、園井さんのことを直接書いたものから、その背景を調べるために紐解いたものまで列挙しました。他にも実際には多くの書籍や雑誌を見ていますが、煩雑にならない範囲でまとめています。これから園井さんのことを調べたい人にとって役に立つと思います。
Kindle版、オンデマンド版のどちらがいい?
本書はKindle版(電子書籍)、オンデマンド版(紙の書籍)両方が用意されています。それぞれ特徴があり、そのメリットとデメリットを紹介していきます。
Kindle版のメリットとデメリット
Kindle版(電子書籍)は専用リーダーの他、パソコン、スマホ、iPadでもKindleアプリをインストールすることによって、端末で書籍を読むことができます。紙の本のように所持してもかさばることはありませんし、時間が経っても材質の劣化の心配もありません。端末ひとつでいつでもどこでも読むことができるのは電子書籍の大きなメリットでしょう。
本書の場合で言えば、カラー写真がそのまま閲覧できることもメリットです(オンデマンド版はモノクロ)。さらに電子書籍の場合、端末の性質にもよりますが、写真を拡大できるのも大きなメリットだと思います。本文中には当時の地図や新聞も一部収録しているのですが、オンデマンド版では拡大に物理的な限界があり、細かい部分については見にくいことは否めません。写真や画像を十分に活用できるのが本書におけるKindle版の第一のメリットだと思います。
デメリットとしては、電子書籍全般に言えることですが、端末によってレイアウトが変化するので、場合によっては文章の読みにくさがあるということでしょう。特に電子書籍に慣れていない人にとっては、時には不器用なほどレイアウトが崩れたりするので、ストレスになる場合もあると思います。
オンデマンド版のメリットとデメリット
オンデマンド版の場合、電子書籍のようなレイアウトの崩れはないので安心して読めると思います。しかし、前述のように地図や新聞の画像については見やすいように留意はしていますが、電子書籍に比べると細かい部分が見にくいことは否めません。また写真は全てモノクロになっています。また、値段はKindle版が1800円、オンデマンド版が2200円とPOD版が少し高めになっています。内容についてはKindle版もオンデマンド版も違いはありません。
写真のきれいさを重視する人、電子書籍の扱いに慣れている人はKindle版、文章をストレスなく読みたい人、電子書籍に不慣れな人はオンデマンド版がお勧めになります。
まとめ
2020年7月1日に出版された書籍『流れる雲を友に 園井恵子の生涯』について紹介しました。完成するまでに多くの方々、公共図書館など関係機関の協力をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。この書籍が園井さんを知る上での入口になり、後世の研究者への架け橋のような存在になれば嬉しく思います。
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