孤独と生きるために ①イントロダクション

はじめに

「自分は孤独だ」そのように嘆きたくなることはないでしょうか? なんだか無性に寂しくなり、誰かに助けて欲しいけど、助けを求める相手もいない……

「孤独」というキーワードで、ネットの通販サイトを検索すると多くの書籍が出てきます。試しに東京都立図書館のホームページで、同様の条件で蔵書検索をしたところ、1000件以上にヒットしました。小説のタイトルなども含まれるので、全てが心理、教養分野の本ではないでしょうが、世の中に「孤独」をテーマにした多くの本があるのは間違いありません。

スマホやパソコンがあれば、部屋の中にいても世界中とつながることが出来る時代です。それにも関わらず、なぜこれほど多くの人が孤独に苦しんでいるのでしょうか。これが意味しているのは、孤独を感じる要因は人や外部との物理的なつながりの多さとは必ずしも関係ないということです。

そして、孤独には大きく異なる二面性があります。

例えば、世界のホームラン王と呼ばれた王貞治選手は孤独を「親友のようなもの」と喩えていて、最近引退したイチロー選手も現役時代に孤独感を語っています。王選手にしてもイチロー選手にしても、周りに人は溢れるほどいて、惜しみない賞賛を浴びた選手生活でした。その成績を収めるためにはかり知れない苦悩があったとは思いますが、その周囲を考えると一般に「孤独」と言われる環境とは大きく異なっています。そして、王選手もイチロー選手もその孤独を貫いたがゆえに、あれほどまでの偉業を成し遂げたとも言えます。

一方で孤独は、人の心を傷つけ、追い詰め、時には自殺に至らしめます。また凄惨な事件が起こった時、メディアは犯人に「孤独の末」という見出しを付けます。

片方で人の栄光の基盤となり、片方で人を死や狂気に至らしめる「孤独」の本質とは、一体どのようなものなのでしょうか?

今回のシリーズ記事「孤独と生きるために」では、孤独の本質を考察するとともに、それに苦しむ人がいかに克服するかについても、考えを深めていきたいと思います。

孤独感は生来的に備わっている

多くの人が孤独に苦しんでいると書きましたが、孤独を感じること自体はおかしなことではありません。

太古の昔より、集団で生活することは人間が生き抜く上で大きな武器になりました。大きな獲物の狩りをする時に集団の方が有利ですし、自分の住処を守るのにも集団でいることで、見張り、子供の世話、外敵から守る役目など役割を分担することができます。人間以外の動物でも多くの場合、集団化することで生き残る確率が高くなります。

現代社会においても、様々な職業が役割を分担することで効率化が得られています。もし集団化せずに現代社会の生活水準を維持しようとすると、食料調達(農業、畜産業)、衣類、食器、家具など日用品の調達(製造業)、住居の確保(建築業)などを1人で行わなくてはいけません。娯楽も欲しいのであればそれも自分で行う必要があります。そんなことは不可能で、現在のような高い生活水準が保たれているのは、高度な役割分担が成立していて、相互が協調して生きているからなのです。

特に人間の場合は子供が生まれても、自力で身の回りのことができるまでに、動物よりもはるかに長い年月を必要とします。人間が進化して脳が大きくなるに従い、母体の中で十分に育てることができずに、未成熟なまま出産する必要が出てきたからです。赤ちゃんのような未熟な存在では集団から離れることは死を意味します。

気が遠くなるような年月の中で、集団化できない個体は生き残ることができず、自然淘汰されていったと考えられます。集団化する能力に優れた個体が生き残った、あるいは集団化するように適応・進化していったのか、あるいは両方なのかはわかりません。いずれにしても人間には長い年月の中で、遺伝子レベルで集団に属する欲求が備わったと考えられます。「集団欲」が食欲、睡眠欲と並んで三大欲求と呼ばれるほど強いのもこのような背景があるのだと思います。

そのため、孤独を感じて苦しむのはある意味で当然のことです。しかし現代社会では、人間が持っている本能的な孤独感よりも強く、弊害が出ているようにも思います。そして、人によっては孤独を有効に活用できるのはなぜでしょうか。

次回に続きます。

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兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。