前回の記事では、事実に対して本能的に起こる孤独感と、その人の内面に何か原因があって過剰に反応している孤独感では明確に区別しなければいけないと書きました。社会で問題になっている孤独感は多くが後者であり、そこには個人の孤独に対する柔軟性や耐久性が問題になります。そして憎悪すると自他ともに傷つける原因になります。
そのような問題となる孤独についてさらに考えを深めていきたいと思います。
孤独感の強さに影響する因子
前にも書きましたが、孤独の感じ方には個人差があります。孤島で1人で暮らしても平気な人がいる一方で、華やかな社交的な世界にいても孤独感に苦しむ人がいます。孤独感をどのくらい感じるかについては、(ごく簡略に言えば)主に以下の3点で決まると考えられます。
・後天的に備わった孤独に対する強さ
・環境的な因子
遺伝的要素による孤独に対する強さ
「遺伝的要素による孤独に対する強さ」というのは、文字通り、生まれた時から決まっている先天的な能力です。赤ん坊の集団1人1人に慣れない刺激を与えると、強く泣き出す子とそれほど反応を示さない子、平気な子がいます。それらをグループ分けしておいて、10年以上経った後にどのような性質を持っているか調べる実験がありました。結果、強く泣き出した子は人前で話したり、精神的重圧を感じる環境に苦しみを感じやすく、赤ん坊時代に慣れない刺激に平気だった子はそのような苦しみを感じにくかったと言います1)。
これは孤独に特化した実験ではありませんが、気質的な素養を先天的にすでに持っていて、それが成長した後にも影響していることを示唆しています。孤独に対する耐性も遺伝的要素によって上下あるという方が、むしろ自然な考え方に思います。
後天的に備わった孤独に対する強さ
人の気質や能力が遺伝子に大きく左右されることは、研究を知らなくても多くの人が感じていることです。同時に、遺伝子以外の後天的因子が大きく影響していることもまたよく知られています。
ウィスコンシン大学の心理学者・ハリー・ハーロウのアカゲザルの実験(1958年)はあまりに有名です。ハーロウはアカゲザルの赤ん坊を母親から引き離し、一体はワイヤー、一体は布で作られた母親を象った人形を与えました。両方とも哺乳瓶を取り付けてミルクが飲めるようにしてありましたが、赤ん坊猿はワイヤーの方にはほとんど近づかず、布製の母親を好みました。ハーロウはさらに触覚的な心地良さも奪い、他の猿とも引き離して育てたところ、異常な行動が目立ち、それは回復することはありませんでした。神経学者メアリー・カールソンは「仲間どうしが互いにかかわり合う環境で育たないかぎり、ほんとうの猿にならなかった」と話しています1)。
イギリスの精神科医、ジョン・ボウルビィ(1907-1990)は「愛着理論」を提唱しました。これは子供が社会的、精神的な発達を正常に行うためには、母親(あるいはそれに代わる養育者)と親密な関係を築く必要があり、それに支障があると社会的、心理学的な問題を抱えるようになるというものです2)。
脳の可塑性(発達的変化)が起こりやすいのが若年であることを考えれば、赤ん坊や子供の時期が人格に大きく影響を与えるのは自然なことでしょう。しかしながら、大人になっても精神的な習熟や技能の修得は可能であり脳の変化は起こり得ます。これは育ってきた環境によって孤独に対して強くも弱くもなり得るということです。
環境的な因子
「環境的な因子」というのは過疎化された村に住んでいるとか、職業や生活環境的に1人でいることが多いとか、伴侶がいないとか、そのような客観的な環境をさします。あるいは恋人と別れたり、知人と死別するなどの出来事も含みます。
環境的な因子というのは孤独感を引き起こす刺激と言えます。それに遺伝的、後天的要素で培われた孤独への強さによって、孤独感が小さくもなり大きくもなります。
当然、強い孤立やショッキングな出来事は孤独感を引き起こすと思いますが、孤独感を強く感じている人とそうでない人が実際に1人で過ごしている時間は大差がないとされています1)。これを考えると、環境的因子の作用は認めつつも、孤独感の強さの要因においては、内面的な孤独に対する柔軟性、耐性の影響が大きいのではないかと推測されます。
まとめ
孤独感をどのくらい感じるか、その強さを決定づける因子についてまとめました。それは主に「遺伝的因子」「後天的因子」「環境的因子」の3つに分けられます。
このうち、孤独感が異常に強い場合、この後天的な過程に支障があり、何らかの問題を起こしていると考えられます。そして自身の努力によって自在に変えられるのは「後天的因子」のみです。孤独感を根本から克服しようとすれば、この過程、いわば今まで行われた学習を是正していく必要があります。
次回も孤独についてさらに知識を整理していきます。
参考文献
1)ジョン・T・カシオポ、ウイリアム・パトリック(著)、柴田裕之(訳):孤独の科学.河出書房新社.2010
2)加藤諦三:自立と孤独の心理学.PHP研究所.1988
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