「文明崩壊」を考える

ホーキング博士の話だったと思いますが、記者が人類の地球外知的生命体と遭遇する可能性について尋ねたところ、「それは0%です」と答えました。記者は驚きました。博士は宇宙人について今まで肯定的な話をしてきたからです。博士は続けました。「高度な文明を築いた社会は長い期間それを保てずに滅びます。なので、もしそのような知的生命体がいても、私たちと会える可能性はありません」。

ユーモアも交えてだと思いますが、何とも深い意味を含めた答えだと思います。それはつまり、地球人類自体が生存することについても難しさを表しているからです。

「銃・病原菌・鉄」でピューリッツァー賞を受賞したジャレド・ダイアモンド氏が、次に手がけたのが、この「文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの」で日本語訳は草思社から上下巻で出版されています。

世界中の様々な場所、時代を取り上げ、繁栄しつつも滅亡した社会、滅亡の危機にある社会(あるいは文化や産業)、滅亡を免れた社会を紹介しています。それぞれ滅亡に到った要因、危険を生む要因、滅亡を回避できた要因を分析することで、現代社会への警鐘を鳴らしています。

取り上げられた社会はイースター島、アナサジ、マヤ文明、ピトケアンおよびヘンダーソン島、ノルウェー領グリーンランド、現在のルワンダ、ドミニカ共和国及びハイチ、中国、オーストラリア、崩壊を免れた例として、ニューギニア高地、ティコピア島、江戸時代の日本、アイスランドなどが取り上げられています。

草思社から販売されている上下巻は合わせて800ページを超えています。江戸時代の日本も第2部第9章の一部で取り上げられていますが、よくこんなに調べたと感嘆するばかりです。

目次(上巻)

プロローグ ふたつの農場の物語

第1部 現代のモンタナ
・第1章 モンタナの大空の下

第2部 過去の社会
・第2章 イースター島に黄昏が訪れる時
・第3章 最後に生き残った人々 ――ピトケアン島とヘンダーソン島
・第4章 古の人々 ――アサナジ族とその隣人たち
・第5章 マヤの崩壊
・第6章 ヴァイキングの序曲と遁走曲
・第7章 ノルウェー領グリーンランドの開花
・第8章 ノルウェー領グリーンランドの終焉

・地図索引

目次(下巻)

第2部 過去の社会
・第9章 存続への二本の道筋

第3部 現在の社会
・第10章 アフリカの人口危機 ――ルワンダの大量虐殺
・第11章 ひとつの島、ふたつの国民、ふたつの歴史 ――ドミニカ共和国とハイチ
・第12章 揺れ動く巨人、中国
・第13章 搾取されるオーストラリア

第4部 将来に向けて
・第14章 社会が破滅的な決断を下すのはなぜか?
・第15章 大企業と環境 ――異なる条件、異なる結末
・第16章 世界はひとつの干拓地

・謝辞、訳者あとがき、参考文献、索引、地図索引

※ 上下巻とも草思社から2005年に出版されたハードカバー版の目次です。

前述のように書籍はページ数が多く内容も濃く、読むのに骨が折れるのも事実です。それが面倒な方には1時間半ほどのDVDも販売されています。書籍の上巻部分の要素を主に映像化していて、取り上げられている社会はアサナジ、ローマ帝国、マヤ文明です。書籍がそれぞれの文明の背景まで詳しく説明しているのに対して、DVDでは収録量の問題もあり、主にテーマである文明崩壊の要素について取り上げています。書籍のエッセンスについてはしっかり捉えていると思うので、入門用としては良いと思います。製作されたのが10年ほど前であり時代の流れも感じますが、指摘されている問題の多くが現在より深刻になっています。

DVDには下巻の内容はほぼ収録されていないですし、上巻にしても書籍で取り上げられているイースター島、ピトケアン島とヘンダーソン島、グリーンランドなどのエピソードは収録されていません。それらの文明崩壊の要素はDVD上にも取り上げられていますが、詳細に知りたいと思えば書籍を読んだ方が良いでしょう。書籍においては各社会の細かい生活の様子や文化、社会様式などにも言及されていて、それらが世界観を広げてくれるように思いますし、崩壊までの流れがより鮮やかに伝わってきます。

本を読んでじっくり考えると、文明の崩壊は成長とともにリスクが増えているとわかります。それはもしかしたら企業や個人にも言えることかもしれません。企業が大きくなり、新たなマーケットに手を広げて失敗する事例は昔から散見されます。人間も生物学的に年を重ねるほど老化してリスクが増えていきます。

そのような意味では「成長する」「育つ」というのは、見方を変えれば「死ぬ」ことへ近づく過程と言えるかもしれません。健全な成長であれば、崩壊までゆっくりと時間が流れるのかもしれませんが、この書籍に取り上げられている崩壊はどれも最後に急激に加速していきます。それは本来受容できる状態よりも、不相応に巨大化している点が共通しています。

巨大化という現象は、自らを見失っているから起こる状態とも言えます。それは時には向上心の負の面として現れて、時には欲が増長した結果として現れます。それは個人にも起こりうることであり、文明の辿った末路は多くの面から僕たちに警鐘を鳴らしていると言えるでしょう。

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ABOUTこの記事をかいた人

兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。