問題は自分の周りにしか感じない ~上司が困った時に頼りにならない理由

自分の周りに困ったことがあったとして、親身になってその解決に当たってくれる人はどのくらいでしょうか? 仕事で困ったことがあっても全く上司は動いてくれない、そんな経験はないでしょうか?

しかし、これはごく当たり前の心理が働いています。それは 問題は自分の周りにしか感じない という原則です。

私は医療や福祉の現場で働いていましたが、時々「こんな病院(施設)じゃ患者さんがかわいそう」と言って辞める職員さんがいました。その人が辞めても、おそらく患者さんの境遇は良くならないでしょう。むしろ、そのように考えてくれる職員さんが1人減るので、むしろ境遇が悪くなるかもしれません。

昔、自分の家の周りに子猫が住み着いて、もらい手を探している老人がいました。「このままじゃ保健所に連れて行かれてしまうかもしれない」と、訪問していた看護師にもらい手を見つけるように事あるごとに頼んでいたそうです。その後、どうしたわけか子猫たちは自然と姿を見せなくなりました。老人は以後、子猫のことは一言も話さなくなりました。子猫がどうなったかも分からないのにです。

このようなことから分かるのは、人間は自分の周りにある問題こそ「自分の問題」と認識しますが、それが見えなくなれば、とたんに問題という意識がなくなります。自分が仕事で困っていれば、それは間違いなく問題なのですが、例えば部下が困っていたとしても、それが離れた支社で自分の目に見えない場所だったとしたら、それは問題と認識することができても、あくまで他人事で当事者意識はないのです。なので、自分の問題に比べて積極性はきわめて少なくなります。でも、これを放置しておくことで、さらに上役から指導など入ると、それはたちまち自分の問題に変わります。

なので、管理する立場になったとしても、現場の感覚を感じるためにもたまに現場に入った方が良いのです。本当に困った客がいたら管理者自ら応対することが理想で、最終的には部下の信望も上がる方法なのです。

このような「当事者意識」がなくなる人間の性質は欠点のように見えるのですが必ずしもそうではありません。例えば、テレビでは紛争や難民、殺人事件、交通事故など悲惨なニュースが流れていますが、これにひとつひとつ当事者意識を持ったら、精神を保つことができなくなります。「自分たち」と「他人」の境界を持つことは人間が精神を安定して保つ上で必要な機能なのです。

逆を言えば、自分は裕福な家に生まれたのに、貧しい人たちのために解放運動を始めるような偉人さんが過去にもいます。そのような人たちは「自分たち」の範囲が広い人で特別な人、英雄的な資質を持った人と言えるでしょう。

それでは普通の人に当事者意識を持ってもらうにはどうすれば良いでしょうか?

その人に直接問題が振りかかるようにするのが一番確実な方法です。本当に困った客がいるのに上司が動いてくれないとすれば、その客に上司の悪口を吹き込んで、上司への非難入りのクレームをさせるとか、上司を飛び越してその上役に泣きつくとか、そういう形ですね。でも、それによって自分の立場が危うくなることもあるので、くれぐれも用意周到にお願いします。

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兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。