孤独と生きるために ②孤独問題の本質

前回、孤独とは人によって成功の助けとなる一方で、人によっては破滅に導くこともあると書きました。そして、孤独感自体は異常なものでなく、生来的に備わっているとも書きました。しかし現代社会では、人間が持っている本能的な孤独感よりも強く、弊害が出ているようにも思います。それはなぜなのでしょうか。今回は孤独感についてさらに考察を続けていきます。

3つの孤独

孤独という言葉はよく耳にしますが、その本質について明確に説明できるかと聞かれると、自信がある人は少ないのではないでしょうか。

いくつかの本を開いて気付いたのは、孤独というひとつの概念のように見えても、そこにはいくつかの側面があり、理解にはそれらを整理して考える必要があるということです。

書籍では孤独について、大まかに次の3つの角度から捉えているように思います。

・環境、物理的要因による孤独
・精神、心理的要因による孤独
・加齢による孤独

①環境、物理的な要因による孤独
孤島や過疎地など立地的な条件や、交通手段の問題、情報通信の不足などにより、外部との接触が実際に少ない状態での孤独です。孤立とも呼ばれます。

②精神、心理的因子による孤独
家族やコミュニティに属していて、環境、物理的には孤独でないのですが、精神、心理面においてつながりを感じられない状態です。

伴侶や友達がいない寂しさがこれに当たります。イジメによる苦痛もこれを含んでいると思います。昔でいえば「村八分」も、このような孤独感を強く与える制裁行為と言えるでしょう。

③加齢による孤独
年を重ねると、多くの孤独と向き合うことになります。家族や友人など親しかった人との死別があります。身体が不自由になり、自由に移動ができなくなります。思考能力も衰えて、若い時のように周囲と対等にコミュニケーションが取れなくなります。高齢者がインターネットや情報通信を上手く扱えないことで、周囲と交信ができにくくなることもこれに当たります。

つまり、加齢による孤独とは否応なしに「環境、物理的な要因による孤独」「精神、心理的因子による孤独」が加えられるということになります。

ただし、加齢については環境的な問題と相反するように、幸せを感じやすくなるという実験データがあります1)。その原因は脳の扁桃体(人間のネガティブな反応を司る)の反応が鈍くなることが仮説としてあります。おじいちゃん、おばあちゃんが客観的には身体が動きにくくなり、生活が不便になっていくのに、寛容であるのはこのような要因があるのかもしれません。

孤独問題の本質

さて、①〜③で紹介した孤独は確かに寂しさやストレスを生むように思えます。しかし、孤島に1人で暮らしていても平気な人がいる一方で、華やかで社交的な世界に暮らしながら孤独に苦しむ人がいるのはなぜなのでしょうか?

孤独感というのは、その人の孤独に対する柔軟性や耐久性にもかなり左右されると考えられます。その受け入れ方によって、一流のアスリートや芸術家のように有効に使うこともできれば、自他ともに傷つける負のエネルギーにもなり得るわけです。

もちろん、全てが受け入れ方次第で好転するわけではありません。田舎で高齢者のみの世帯はどうしても孤独になります。学校のいじめも悲惨な現状があります。どんなに心が柔軟で強くても家族の死は悲しいし寂しいものです。年を取ることによる喪失感も避けることは難しいと思います。

そのような動かしようのない事実による孤独は確かに存在するのですが、社会で多く問題になっている孤独はそのようなものではありません。ある人にとっては有効に扱うことができて、ある人にとっては大きな苦しみになる、そのような孤独感で苦しむのは、孤独が問題なのではなく、おそらく孤独に過敏に反応するその人の内面に原因があります。

事実に対して本能的に起こる孤独感と、その人の内面に何か原因があって過剰に反応している孤独感では明確に区別しなければいけません。前者は原因となる事実が解消されれば自然に緩和しますし、原因以上には憎悪していきません。

しかし、後者の場合は対処によってはどんどん増大していく恐れがあります。その内面の原因が変わらない限りは、おそらく伴侶ができても、いくら周囲から賞賛を浴びても、一時的に気を紛らわすことはできても、孤独感はしばらくすると戻ってきます。いくら水を飲んでも癒えない喉の渇きのようなもので、気を紛らわせるための刺激を求め続けるでしょう。孤独感の原因を外部に求めても解決にならないのです。

そのような問題となる孤独感がどのように生まれるのか、次回分析していきたいと思います。

参考文献
1)ジョン・T・カシオポ、ウイリアム・パトリック(著)、柴田裕之(訳):孤独の科学.河出書房新社.2010

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兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。