この「小さな哲学の部屋」を始めた時、日々の考えや気付きを書くはずだったのに、いつの間にか仰々しく準備をしないと更新できないブログになってしまいました。それも良いと思うのですが、もっと読む人が友人のような感覚で気楽に訪れてくれるような・・・ 日々に疲れた人が、千和は何をしているのかとのぞいてくれるような、そんな記事があっても良いのではないかとふと思い始めました。
今までのテイストも並行しながら、カテゴリー「哲学の散歩道」では、千和の日常や思ったことをエッセイ風に、出来る限りリアルタイムに徒然と語っていきたいと思います。
今日はいくつも気になる出来事があって、そんな日はそう多くありません。
そのうちのひとつがこれです。
著者:今村欣史
発行所:朝日新聞出版
発行日:2020年2月28日
楽しみにしていた本が届きました。
白地に茶色をベースにした装丁のセンスがとても良いです。
この書籍には、著者が経営している喫茶店の客たちがふともらした話がそのまま収録されています。そう書くと、いかにも創意工夫がないように思われるかもしれませんが、喫茶店の客は1日に何人も来て幾千の話をしていきます。そこから選んだのだから、自然と著者の感性がにじみ出てきます。
読むと、戦争中の話から平成年代まで、市居の人たちの本音の心情がじわりと伝わってきます。
このような本は何か読者に感動させようと余計な欲が出ると、それがすぐに伝わり興ざめさせてしまいます。つい、手を出してしまいたくなるところを、著者は見事なくらい手を出していません。あるいは手を出していないように見せているのか? 一見、手つかずに思えるくらいだからこそ、朴訥に言葉が心に伝わってくるのです。素材に極力手を付けないことで、その本質を保っていると言えます。
著者は「『輪』に集うのは普通の人である。ごく平凡な生活をしている人たちだ」と冒頭に書いています。そして「庶民という言葉は、あまり使いたくない」とも書いています。
そう、この本に登場するのは皆、普通の人たちです。でも、著者が「庶民」という言葉に引っ掛かりを感じるように、私は「普通」とか「平凡」という言葉を使うのも少しためらってしまいます。他に言葉がないのでやむを得ないのですが、ありふれているのだけど、そこに存在するのは決して普通でも平凡でもないのです。
私もそうですが、静かに自分の周りの世界を味わうことができなくなっています。少しの時間の隙間を持て余してスマホに手を伸ばしてしまいます。そのような現代人にとって、この本の世界は異質な世界でしょう。と同時に心のどこかで求めている世界とも言えます。
疲れている現代人にとって、忘れてしまった何かを思い出させてくれる本のように思います。
的確な書評を書いていただきましてありがとうございます。励みになります。
コメントありがとうございます。ならびに、この度は上梓おめでとうございます。多くの方が手に取り、読まれることをお祈りしています。