芸大通信教育部青春記① ~決意と入学まで

20代前半の頃ですから、すでに15年以上前の話になるのですが、理学療法士として病院に勤務していた頃、先輩から「学生時代から専門学校に入って、ずっと医療の分野だけにいると、その業界に偏ってしまう。他の世界も見ておくと良いよ」と勧められました。

その先輩は大学の夜間部で経済学を学んでいました。

自分は今もブログを書いているように、文章を書くことが好きで、芸術にも興味があったので「芸大に行ってみたい」と思い付きました。10代で漫画を描いていた頃も漠然と思っていましたが、成績も悪く美術の才能もなく、チャレンジもしていませんでした。なので、芸大に行くというのはある種、青春時代の忘れ物を取りに行くような感覚もあったのです。

大阪芸術大学が通信教育部で文芸学科を設置していたので、意を決して、働きながらそこで学ぶことにしました。結果的に卒業まで9年もかかってしまいましたが、大学での学びは貴重な経験だったと思います。

そこで、これから芸大の通信教育部で勉強したいと思っている人、興味がある人、すでに在学している人などの参考になればと思い、その時の経験を書いてみることにしました。

通信制の大学でもそれぞれ特色があり、あくまで大阪芸大での体験ですが、勉強の仕方や意欲の保ち方などは他の大学でも通じるものがあると思います。

入試・費用

大阪芸術大学通信教育部の入学に必要なのは、願書一式と志望理由書、入学検定料1万円くらいで、入試らしい入試はありませんでした。

おそらく、志望理由書によほど問題がない限り、誰でも入学できると思います。大学入学の資格(高卒か同等の学歴)は必要ですが、それで晴れて芸大生を名乗れます。
入学時に、入学金として3万円、前期の授業料として10万円を納入しました。大阪芸大通信教育部の授業料は当時で半期10万円、1年で20万円でした。この前期、後期の区分けもけっこう大事で、例えば4年で卒業できなかった場合、5年目の前期で卒業できれば余分な出費は10万円で済みます。つまり、在学満4年は必須ですが、それ以降は半年ごとの設定で10万円ずつかかるという計算です。

授業料の他に教材費とスクーリング費がかかります。教材は大学が出版している専用の教科書もあり、それについては購入しなくてはいけませんでしたが、一般書籍を指定している教科もあり、そのような場合は自分で本屋で購入しても良いですし、図書館で借りて済ませることもできました。同級生の中には先輩からいらなくなった教科書を安く譲り受けている人もいました。

スクーリング費用は受講費が1単位につき8千円~1万5千円別途必要でした。金額の差はその授業形式が講義か演習か実技かで違うことによるものです。

スクーリングは短い授業で1日半、長い授業で3日でした。遠方で学んでいる人は交通費や期間中の宿泊費も必要でした。

それらを含めると大阪近隣の学生は半期10万~15万円、遠方であれば15万円~20万円くらいがおおよその費用だったのではないでしょうか。

卒業するには?

入学が決まると、通信大学生活をスタートさせるための補助教材一式が届きます。補助教材の主な内容は次のようなものだったと思います。

学生便覧:大学生活を送る上での事務手続き、卒業要件などをまとめた本。
学習指導書:各教科の授業内容や試験などを説明した本。総合教育科目、共通専門科目、専門科目(後述)の3冊あり、これを参考に履修登録をする。
スクーリングのしおり:スクーリングの日程や宿泊先など役立つ情報が書かれている。
その他:履修登録票、教材申込書

実際に使用していた学生便覧と学生指導書。教科の課題内容が変更されることもあり、何年かに一度、送られてきていた。

大阪芸術大学通信教育部の場合、卒業するには4年間(最長10年まで在籍可能)で124単位以上修得しなくてはいけません。教科は「総合専門科目」「共通専門科目」「専門科目」に分かれています。僕が属していた文芸学科は「総合」を30単位以上、「共通」を38単位以上、「専門」を50単位以上取るのが条件でした。この配分は学科ごとに異なります。

あれ? 文芸学科は合計しても118単位しかないと気付いた人もいるかもしれません。足りない6単位は「総合」「共通」どちらでもいいので、その分単位を修得する必要があります(文芸学科の場合、専門科目は全て履修が必須なので余っている教科がありませんでした)。

「総合専門科目」は芸術に絡んではいるものの一般教養に近い分野で、現代美術論、日本国憲法、哲学、保健体育概論、図学、心理学、映画と文学、英語などの教科がありました。これはどの学科も共通です。

「共通専門科目」は芸術関連ですが基礎的な範囲にとどまっており、ここでは他の芸術分野の勉強もできます。デザイン学概論、建築デザイン論、写真概論、映像概論、映像概論、文芸概論、色彩学、造形原理、20世紀の音楽などの教科がありました。「共通-」は各学科ごとに必須科目の設定があります。例えばデザイン学概論であればデザイン学科が必須、建築デザイン論であれば建築学科が必須という具合です。

「専門科目」は各学科ごとの専門分野に特化した授業であり、これについては他の学科の授業を受けることはできません(ただし、一部共通する専門科目はあります)。

各授業科目は「必須科目」「選択必須科目」「選択科目」の3種類あり、「必須」は必ず履修しなくてはいけないもの、「選択」は履修してもしなくても良いもの、「選択必須」はどちらか選べというもので、例えば美術学科では絵画実習で「日本画」か「洋画」どちらかを選ぶという「選択必須科目」がありました。

「総合専門科目」と「共通専門科目」はほとんどが「選択」、「専門科目」はほとんどが「必須」か「選択必須」でした。また書くと思いますが「選択科目」の選択が学習の進みを左右するので、そこが頭を悩ませるところでした。

各科目とも履修年次が決まっていて、例えば3年次の科目は1年生の時には履修できません。3年目以降に履修可能になります。そのため、1年生の時に全て履修して、あとは遊んでいるだけなんてことはできません。それとごく一部ですが、ある教科の単位を取得していないと受けられない科目というのもありました。文芸学科や映像学科では、シナリオ創作論(1年次)→シナリオ演習(2年次)→放送脚本演習(3年次)という取得の順番を指定する科目がありました。

ちなみに「専門科目」については他の学科のものは受けられないのですが、2年生までは転学科が認められていて、「他の学科の方が良かった」なんて人は別の学科に移ることも可能でした。僕の周りではいませんでしたが、学科は入学前に悩むところでもあるので、中には別の学科に移った人もいたのかもしれません。

それらルールを理解した上で卒業を目指します。通信制大学の卒業要件はシンプルで、単位を規定通りに修得すれば良いだけです。しかし、それがどれだけ大変かは、入学した時には想像できていませんでした。この後9年間も大学に在籍するとは当時は夢にも思わなかったのです。

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兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。