生きづらい世の中なのかもしれません。
自殺者数は減少傾向にあるものの、自殺率はG7(先進7ヵ国)でトップだと言います。
私が病院勤めをしていた時の話ですが、患者さんのカルテには家族の情報も書かれています。そこに「うつ病」と書かれていて何度か驚いたことを覚えています。その人たちを目の前にしても、明るく社交的でそのように見えなかったからです。一見、悩んでいるようでなくても、心に闇を抱えている人は少なくないのかもしれません。
精神を患う人が必ずしも経済的に困窮していて、社会的に孤立しているかと言えば、そうではありません。むしろ、世間的に見れば名声も富もあり、恵まれた環境にいる人も珍しくありません。
このブログでも紹介した将棋の先崎学九段もうつ病とは縁遠い人物と思っていました。
→『先崎学を応援する』2019年8月26日
ここからわかるのは、精神的な問題というのは個別で多様性のある問題であって、画一的に一般論で語れる対象ではないということです。誰もがそのような状態になる可能性があり、すでに精神を患っている人もそうでない人も、自分で心のメンテナンスが必要な時代なのかもしれません。
今回は「うつ病」関連の本から2冊紹介します。
『うつヌケ』田中圭一著
うつ病を患った個別の背景、原因、改善のきっかけなどが書かれています。著者が医療の専門家でないということもあり、薬剤や具体的な治療法に言及するというよりも、病気の根本となった心理因子や環境に対する考え方への対処が中心になっているように思います。
マンガということもあり楽々1日で読めます。反面、当人たちの感情が絵で記号化されてしまい、その心情の細かさまでは伝わりにくくなっているようにも思えます。
『自分の「うつ」を治した精神科医の方法』宮島賢也著
著者はもともとは循環器、総合診療部などに勤めていましたが上手くいかず、うつ病を発症します。精神科に診療科を変えるもののそこでも上手くいかず、プライベートでは家庭も崩壊します。その中でジェームス・スキナーの『成功の9ステップ』という本に出会い、うつを改善するきっかけとなります。
著者は現在の精神医学はその根本的な原因を追究せずに薬による対処療法に終始していると指摘します。うつ病になった心理的、環境的因子を解決しないことには、根本的な解決にはならないというのがこの本の論旨に思います。そして、そのための方法論をものの考え方、食事療法を中心に述べています。
この本で私が感じ入ったのは、著者が自身のかつての弱さや失敗を隠すことなく本の中で語っていることです。読むと本当に医師かと思えるほど精神的な脆さを抱えています。Amazonのレビューの中にはその過去の行動について批判している方もいました。確かにその考え方も一理ありますが、人間は誰しも、形は違えどそのような欠点や失敗を経験しているのではないでしょうか。そのエピソードを読むと「自分だけではないんだ」と心を癒やされる読者もいるのではないかと思いました。
まとめ~2冊の評価
この2冊は基本的なコンセプトが似ているように思います。両方ともうつ病の原因になった心理面について焦点を多く当てている点です。『うつヌケ』については著者が医師や専門家でない点、『自分の「うつ」を治した精神科医の方法』については著者が医師ゆえに様々な治療を見てきたゆえに、結論としてそのような内容に行き着いたのだと思います。
Amazonのレビューには「本当に重症のうつ病患者には勧められない」というものがありました。確かに精神的に追い詰められた人にとって、自分で心理的に変化するのは難しいかもしれません。いわば病気でいう緊急時・急性期であり、そのような時はこれらの書籍で勧められているような長期的な根本治療ではなく、とりあえず症状を抑える対処療法的な治療が必要(あるいは並行して行っていくべき)かもしれません。
またレビューの中にはおそらく軽症者を揶揄してでしょう、「うつもどき」という言葉も見られました。病気には個人差があり、重症の人から見れば「うつもどき」と言えるような症状でも、本人たちにとっては苦しいことに変わりはないはずです。おそらく、これらの本を読んで救われたという人がいる一方で、改善が見られなかった人もいると思います。このような精神や心理を扱う本は、その読者個人の背景が大きく評価に影響するのではないでしょうか。
私はうつ病ではないですが、それなりに日々の生活に悩みや不安があります。私がこれらの本を読む理由は、実際に精神を病む前に何とかしたいという思いがあるからです。その私個人が感じたこれらの本の効用は、これら苦しんでいる人が自分だけでなく、多くいるということが伝わってくることです。その効用は存外に小さくない気がしています。
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