芸大通信教育部青春記② ~キャンパス生活のスタート

学生証とWebによる学習支援システム

入学の手続きを済ませると、通信大学生活をスタートさせるための補助教材一式が届きます。それとともに、この時期に学生証も受け取ります。僕の学籍番号はTL03-0××で、Tは通信、Lは文芸(おそらくLiterary artの頭文字)、03は2003年入学、0××は××番目という意味だと思います。03は2003年という意味ですが、大阪芸大の通信教育部は2001年から設立されているので、同時に3期生を意味しています。

当時は通信教育部の記念すべき1期生や黎明期を経験した2期生も在籍していて、後の記事で書きますが交流もありました。

学生証の他に、Webによる学習支援システムのパスワードも受け取りました。専用のホームページに掲示板のようなものが、全学科、学科ごと、学科年次ごと、教科ごとに用意されていて、学習で困ったことをWeb上で質問できました。

しかし、当時からすでに過疎化していて、ほとんど投稿はない状態でした。原因を考えると、当時は現在ほどネットも普及しておらず、スマホもありませんでした。通信制の大学では40代、50代の学生も多く、そのような世代では上手く利用できない人もいたかもしれません。

孤独になりやすい通信生にとって、ネットでも繋がりを持てるというのは大きなメリットだと思います。当時は上手く活用されていませんでしたが、方法次第で大きな可能性があるシステムだと思います。

はじめての履修登録

さて、前回にお話ししたように、通信制大学では卒業までに修める単位数が決められていて、学生は自分でどのように学習を進めていくか計画を立てて、主体的に学んでいく必要があります。

4月と10月の半期ごとに履修登録と言い、何を学ぶか決めて申請します。この半期で終わらなくても次の期に履修は引き継がれるので、いずれ勉強する気なら終わる清算がなくても登録しておいて大丈夫です。履修しておいて卒業まで単位を取れなくても、他の教科で卒業要件を満たしていれば問題ありません。

ただし、履修登録をしていないと、途中で気が変わってもその半期では勉強することができない(正確にはレポートを受け付けてもらえないのと、単位が修得できないだけなので、勝手に勉強することはできます)ので、少し余分に登録しておいても良いでしょう。

最初の履修登録では多くの教科から選んでいくので、どれを学べば良いのか迷いましたが、とりあえず自分が興味のあるものを登録しました。

履修登録した教科のテキストを注文し、それが届くと、いよいよ勉強を開始することができます。

さっそくレポートにとりかかる

教科書が届いた時は新鮮な気持ちで、これからどんな学びがあって成長できるのか、期待に胸を膨らませていました。

特に専門科目の教科書は一部、大学発行のもので、芸大ではどんな教え方をするのか、どんなすごいことが書いてあるのか、興味を持って開いたことを覚えています。

気持ちが高まっているまま、最初の教科に手を付けることにしました。どれを最初にやるべきかわからなかったので、学生便覧に書いてある総合専門科目の1番上から勉強することにしました。

それは「現代美術論」で、テキストは市販されている「なぜ、これがアートなの?」(アメリア・アレナス著、淡交社刊)でした。

スクーリング以外の科目は、各教科から出された課題にレポートを提出することで単位が認められます。

現代美術論は4単位で、全4課題ありました。1つの課題が1単位です。ただし、単位は全部の課題を合格した時にまとめて認定されるので、1つの課題だけ合格しても単位は認定されません。

教科によっては1つの課題で2単位を認定するものや、全部の課題を終了した後に最終レポートの提出や試験を課しているものもありました。効率良く卒業しようと思うと、そのような教科ごとの労力や難易度も考える必要があります。

はじめての提出まで3ヶ月

さて、はじめての学習となった「現代美術論」ですが、僕自身、美術館などで作品を見て「これって芸術なの?」「何を持って芸術なのだろう?」と疑問に思うことが多かったので、「なぜ、これがアートなの?」をテキストに持つこの教科には興味がありました。

まず、テキストをひと通り読み、学習指導書に書いてある課題を確認しました。

現代美術論〈第一課題〉
美術館で展覧会を見て、展示作品のなかから現代と対照する要素を見いだし記述する。

課題はたったこれだけの記述で、自分が持っていたイメージよりもはるかに簡潔であり、しかも自由度が高いものでした。

少し離れて「課題の解説」という項目があって、そこには「現代と対照する要素は、共通要素、反対要素など考えられる。各自自由に決めてよい」と書かれていました。

自分はテキストと関連する内容が課題に出されると考えていましたが、確かにテキストは課題を行う上で必要な視点を与えてくれますが、直接的な答えを教えてくれるものではありませんでした。

今まで受けてきた教育では、どこか自分の手の届く範囲に答えが用意されていて、それを探すような作業でしたが(芸大にもそういう課題もたくさんありますが)、ここでの課題は決められた答えが用意されているわけではなく、自分の頭で問題の意味を考えて、答えを創り出す必要がありました。

漠然としていて、取り掛かりが分からず、どのようにまとめれば良いものか、最初のレポートを提出するまで3ヶ月の期間がかかりました。

市内の美術館で展示されていたエミール・ガレのガラス工芸についてのレポートで、苦労しただけに今も思い出深いものになっています。

「学生便覧」によれば、通信での1単位の修得は「45時間の学習を必要とする印刷教材等の学修をもって1単位とする」と説明されています。額面通りに受け取れば1単位に45時間かかるということです。仕事しながら勉強しているとすれば、到底4年間では卒業できない時間数です。

実際には45時間もかからないと思いますが、ひとつのレポート、1単位にかかる労力が容易ではないことを思い知った最初のレポートでした。

当時は苦労しましたが、今、課題を読むとどのように学習してレポートを書くべきか、手順が速やかに考えつきます。数々のレポートをこなして、それだけ考える技能が向上したのだと思います。自分の成長を実感する上で、苦労したレポートというのは良い比較対象になると思います。

通信制大学の、特に通信課題というのはコツがあります。それをつかむまでが大変で、自分のスタイルができてからは、学習のペースがだいぶ速くなりました。個人による向き不向きもあると思いますが、後の記事で僕の考えた学習方法についても紹介したいと思います。

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ABOUTこの記事をかいた人

兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。