なぜ上司は無能なのかという問題

少し、センセーショナルなタイトルかもしれませんが、これって非常に大切な問題だと思います。会社員のストレスの原因は人間関係が6割、多ければ8割と推計している報告もあります。正確なところは分かりませんが、いずれにしても会社員において、人間関係というのは間違いなく大きなストレスの原因と言えます。

特に上司が無能という問題は何者にも替え難い、大きなストレスとなるでしょう。昔、誰が言ったのか知りませんが、旧日本軍を揶揄して「馬鹿な大将、敵より怖い」という言葉があったそうです。太平洋戦争の中頃から日本軍が劣勢になる中で、成算や合理性のない作戦が多く見られるようになりました。その被害を受けるのは前線で働く兵士たちで、多くの人が現実に犠牲になりました。この言葉は風刺として生まれたものかもしれませんが、問題の本質を悲哀も交えて的確に突いたものと思います。

この上司が無能という問題について鋭く本質を考察した書籍があります。ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル共著の「ピーターの法則 創造的無能のすすめ」です。

この本はとてもユーモアにあふれていて、文体だけ見ると「ちゃんとした本なのか?」と思う方もいるかもしれませんが、内容については気に止める価値があるのではないかと思います。

この本の第1章には「十分に時間があれば ―そして組織に十分な階層があるなら― すべての個人は、その人なりの無能レベルに行きつくまで昇進し、その後はそこに留まり続けることになります」という言葉がありますが、これがピーターの法則の基本的な原則を示しているように思います。

例をあげると、会社で有能な社員がいたとします。有能ですから出世するでしょう。係長、課長となるとして、出世するに従い、今までと違う能力が必要になってきます。部下を管理する能力ですが、適切に仕事が行えるように教育したり、時には指導したり、部下同士の人間関係を上手く取り持つ必要もあるかもしれません。また今までは上司からの命令を聞いていれば済んだところが、今度は上司と部下の板挟みになります。

読んでくださっている方の周りにも、出世してから人が変わった、仕事ができなくなったという人はいないでしょうか? 有能であり続ける限り出世します。そして、いつかその人の能力で扱えない役職に到達するため、そこで無能が出現します。仕事はその無能の領域に到達していない途上の人間が行うことになります。他にも出世でなくても、経理が得意だった人が営業の仕事になるなど、無計画な「異動」でも無能の原因になります。

もともと無能な平社員はそのまま平社員で居続けて、出世した人間も無能な領域で留まるので、組織が大きくて、出世や異動の余地が無限にある会社は、無能者であふれるという理屈になります。

例えば、出世のためのポストが少なかったり、もともとなかったりすれば、有能の領域に居続けることができます。「十分に時間があれば」「そして組織に十分な階層があるなら」という前提はこのことを表しています。まれに「頂上有能」といって、ポストの頂点に到達しても有能であり続ける場合もありますが、その場合も別の分野に挑戦するなどして無能の領域に移りやすいとしています。例えば、社長として有能であった人物が政治家となって活躍できないケースや、俳優業で成功した人物が起業して失敗するケースなどがこれに当たります。

この本、前にも言いましたが、全体的にユーモアで包まれていて真面目な論理的な書籍とはイメージが違うのですが、階層社会のひとつの陰は示しているように思えるのです。ローレンス・J・ピーター博士はすでに亡くなっていますが元南カリフォルニア大学の教授で、「階層社会学」という言葉を提唱していたそうです。

この論理は逆に言えば、無能な上司に悩んでいる自分たちにも適用されるわけです。自分の適性が果たして何か、よく知らずに欲望に任せてポストを望めば、能力と全く関連しない仕事に従事することにもなり兼ねないわけです。この法則を適切に守っている業種が職人さんと言えるでしょう。「ピーターの法則」はユーモアに包みつつも、社会の陰を的確に風刺して、無能の予備軍である僕たちに警鐘を鳴らしていると言えます。

参考にした書籍ならびに関連書籍
1)ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル(共著)、渡辺伸也(訳)「ピーターの法則 創造的無能のすすめ」ダイヤモンド社.2003

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兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。