人はなぜ無力になりたがるのか?

誰も無力になんてなりたくない、弱者でありたくないと思うはずです。「そんなこと当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、実際にはこれと逆の 無力願望弱者願望 がよく見られます。

わかりやすいのが子供の「赤ちゃん返り」と呼ばれるもので、小さな子供が弟や妹が生まれた時に、親の関心を引くために、赤ちゃんのように未熟な状態でふるまう現象です。心理学の用語では「退行」とも言います。

このような現象は大人でも見られます。他人に甘えたくても、甘える手段がなかったり、立場上、甘えることが許されなかったりすると、自分の弱い面や未熟な面をアピールして関心を引こうとすることがあります。

人は多くのストレスを抱えていて、それを自分自身で消化できないことも多々あります。ストレスが過剰になると、何とか解消したくなるのですが、それが上手くいかない場合に本来の願望と違った形で表に出てくることがあります。

時には弱者であることを強権にして他人に危害を加えることもあります。僕は自宅療養の方のお宅に訪問してリハビリをしていたことがあるのですが、その家族の中にはひどく暴力的な方もいました。最近、テレビでも話題になっている「介護サービスを受ける側のハラスメント」というものです。

医師にこの後も無事であることを保証しろと詰め寄ったり(未来のことは誰にも保証できません)、ヘルパーの介護方法が気に入らないと(ミスがなくても)罵声を浴びせたり、電話で延々と2時間以上苦情を話したり、そのような家が実際に存在します。このような家が原因でスタッフが退職することもありました。

そのような人は自分があたかも被害者であるようにふるまいますが、相手が抵抗ができないことを知っていて行う計算があります。相手がサービスの提供を拒否すると、自分が行ったことは棚に上げて、権利を盾に抗議します。

ストレスを解消するために、「弱者」という立場を利用して、抵抗できない人を攻撃することで、自分の精神的安定を保っていると言えます。しかし、お分かりいただけると思いますが、このような人はすでに弱者ではなくなっています。しかし、自分が弱者であることを正当性の拠りどころにしているのです。

さて、弱者願望や無力願望というのは他のパターンもあります。それは重責から逃れようとする防衛機制とも言えます。

僕はオセロの国内メジャー大会で並みいる強豪を相手に中盤までトップを走っていたことがあります。もし、このまま優勝したら日本代表として世界選手権進出というところでした。しかし、山場と言える一戦で逆転負けを喫し、そのままズルズルと入賞もできない位置に後退してしまいました。

ゴルフで言えば、最終日までトップだったのに、そこでダブルボギーを連発するようなものです。

こんな残念な結果にも関わらず、僕の心にはどこか安堵した感情もありました。そのまま勝ち進んでいたら、より重圧がかかっていたでしょう。それから逃れられた安堵感とも言えます。トップの位置で戦っている時からどこか違和感を感じていました。本来の自分がいるべき場所と違うという感覚があったのです。

仕事で言い換えれば、大きなプロジェクトを運用しようとすれば相応の責任が肩にかかります。より困難な業務をこなさなくてはいけません。そこで手を上げて、重圧にさらされるくらいなら、弱者や無力な方が楽ではないか、そのような心理が無意識に働くのだと思います。

また、恋人と何も問題がないにもかかわらず、今後も仲良くやっていけるか不安なばかりに、わざと相手を傷つけるようなことをして、関係を破壊してしまうようなケースもあります。これは相手の愛情を確かめている行為と言えて、その深層には未来への不安や自分への自信のなさが隠れています。

今回の記事ではいくつかの「弱者願望」「無力願望」を紹介しました。その深層には渇望や不安など様々な感情が潜んでいます。その感情を放置したまま行動に走っては、本来求めていた結果が得られないだけでなく、周囲との関係も壊しかねません。

自分の場合でしたら、一度、なぜそのような行動や心理に導かれるのか、内面の感情を見つめ直すと良いのではないでしょうか。私のオセロの場合でしたら練習量を増やして自信をつけることが考えられますし、恋人との関係であれば率直に自分の感情を打ち明けるなど、より良く進んでいくための方法があると思います。

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兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。