これまでの記事では、孤独とその感じ方について、複数の角度から考えを深めてきました。それでは、湧き出る孤独感についてどのように対処すれば良いのでしょうか。
孤独の克服には様々な考え方があり、決まった方法があるわけではありません。いくつかの角度からそれぞれの対処法を紹介します。
幸せと孤独と成功の関係から
幸せと孤独感には相互に関連があり、幸せな人は孤独を感じにくく、孤独感が少ない人は幸せを感じやすいとされています。
つまり環境に関係なく、実生活が充実していれば、孤独感は感じにくいということです。どうしても環境的に孤立しやすい(人との交流が少ない環境であったり、単身者であったり)のであれば、何か生活に楽しみを見つけたり、夢中になれる趣味を見つけるのも解消策の一つだと思います。
必ずしもSNSなどで他人とのつながりを持つことだけが解決の道筋ではありません。SNSの効用については、また後述したいと思います。
また、成功と幸せの関係ですが、成功のひとつの要素として収入を取りあげると、年収700万円までは収入が高くなるほど幸せを感じやすいという調査結果があります。
しかしこの2つの関係は、よく考えられがちな成功する(例えば、収入が高い)から幸せを感じるのではなく、幸せを感じるから成功するという考え方が最近提唱されています。
幸せな状態は、他人との親密な関係や意欲的な活動を生み出しやすく、それが成功につながるという考え方です。気分的に幸せなら必ず成功するわけではないでしょうが、社交的で物事に前向きな方が成功しやすいというのは頷けるのではないでしょうか。
さらに言い換えると、孤独感が低いことが幸せにつながるなら、孤独感を下げる→幸せになる→成功するという図式も成り立つように思います。
過去のトラウマ(心的外傷)を克服する
孤独への柔軟性や耐性には遺伝的因子と後天的な因子両方が影響します。遺伝的因子は変えられませんが、後天的因子についてはいくらか改善の余地があります。
前述のように、直接孤独感を治療しようとしなくても、何か夢中なものがあったり、生活が充実していれば気にならなくなります。
しかし他の生活面はほとんど問題がないのに、なぜか寂しくて仕方がない、1人でいることに極端に弱い気がするなど、孤独感が人生において大きな支障になっている場合もあります。
恋人に過剰に干渉してしまう人や、依存心が強くて人間関係に失敗してしまう人もこれに当たります。
後天的因子はいくらか改善の余地があると書きましたが、幼少期から強く根を張っていることも多く、必ずしも簡単ではありません。以前の記事で、ジョン・ボウルビィの「愛着理論」を紹介しましたが、全てを幼少期に原因を求めるのは極論にしても、過去のトラウマが大きな影響を及ぼすという考えには頷けます。
トラウマを克服する方法についてはいくつも書籍が出版されているので、それらを参照していただき、自分に合った方法を見つけるのが良いと思います。過去のトラウマを消すためには、そのトラウマともう一度向き合わなくてはいけません。間違いなく自分の人生において辛い場面であり、それは言い換えれば自分の弱さと向き合う作業でもあります。
例えば、最愛の恋人が浮気して自分の元を去っていたことで、新しい恋人ができても信頼できず、執着して、干渉し過ぎてしまうとします。相手が違う人物にも関わらず信頼できないのは、他人を信頼できないというよりも、実は浮気された自分を信頼できなくなっています。自分に愛される価値がない、あるいは、もし同じようなことがあった場合に自分では耐えられないと感じているのです。そのため、少しの刺激でも扁桃体が働いて、不安や恐怖が生まれてしまうのです。
このような場合、トラウマを克服するには……
②その時の感情をじっくり追体験します。
③そのトラウマのメッセージを感じ取ります。例えば、「自分は愛される価値がない」とか「私の○○がダメなんだ」など、その体験で自分に刻み込まれた内容を読み解きます。
④そのメッセージを打ち消します。「○○(過去の恋人)は私から離れていったけど、自分は愛される価値がないわけじゃない。それは○○の勝手な考えであって、私はそう思っていないし、他の人も私を愛してくれる」などと声に出して叫びます。鏡で自分の目を見つめながら言葉にしても良いと思います。
⑤最初は心がざわめくような違和感があると思いますが、心にしっくりくるまで繰り返します。あるいは数日繰り返します。
※ このトラウマの克服法に関しては下の書籍を参考にしました。
心を支配しているトラウマは1つとは限りません。効果が感じられない場合は、他にも影響を与えた出来事がなかったか考えてみましょう。また、繰り返しになりますが方法はいくつもあり、自分に合わないと感じたら書籍などで他の方法を探していただくと良いと思います。
自立力を高める
前回の記事で紹介したように、孤独感の不快な感覚は、脳の「扁桃体」という部分の働きにより起こります。
この扁桃体は恐怖や不安を司る部位であり、孤独感だけでなく、例えば人前で話すことの不安や、高い場所の恐怖もこの部位が担っています。
この部分が過剰に働かないようにしたいのですが、ピンポイントに対処するのは難しいと考えられます。外科手術などで扁桃体を破壊すれば可能でしょうが、恐怖や不安が完全になくなることは、大きなデメリットになります。不安や恐怖がなくなると、危険行動の抑止が効かなくなります。また、行動においてルールを守る理由が乏しくなり、反社会的な行動が多くなります。
加齢から扁桃体の機能が鈍くなることは考えられますが、不安や恐怖を調整する前頭前野の機能も低下が考えられるので、どのように感情が表出するかは不明な部分が大きいです。歳をとって穏やかになる人もいれば、怒りやすくなる人もいるのは、そのような理由なのでしょう。
扁桃体は不安と恐怖を引き出しますが、それには刺激が付随します。高所恐怖症であれば、高い場所という刺激があって、はじめて不安や恐怖が引き出されます。恐怖症の人は、刺激と扁桃体の結び付きが過剰に強くなった状態と言えます。孤独感が強い人も、孤独という刺激と扁桃体の結び付きが強い(あるいは前頭前野の抑制が効きにくい)状態と言えるでしょう。
不安や恐怖を引き出す刺激は多くありますが、全てが関連し合っているわけではありません。例えば、高いところは平気でも、人前で話すことに強い恐怖を感じる人もいるでしょう。
あくまで特定の刺激と扁桃体の結び付きが問題だと考えられます。しかし、そのような中でもお互いに影響している刺激はあるように思います。
孤独に関して言えば、自信に関する能力が強く関連するように思います。自信は自立につながります。前述の恋人に浮気されたトラウマについても、結論としては自分を信頼できなくなっているのであって、孤独感と自信は密接に関わっていると考えられます。
もし、孤独に苦しみながら過去にその原因を見い出せないとしたら、自分を心から信頼できているか問いかけてみましょう。自信がないこともまた、孤独感と同様に過去のトラウマが原因がもとになっていることが考えられます。
前述したような方法でトラウマの克服を試みてみましょう。
前頭前野の機能を高める
扁桃体が刺激に対して不安や恐怖を生み出す一方で、健全な前頭前野はそれをコントロールします。卓越したスポーツ選手や偉人は強い孤独に耐えうるだけの前頭前野の機能を持っていると言えます(パフォーマンスは良くても私生活は破天荒という人もいますので一概には言い切れませんが……)。つまり、前頭前野の能力を高くすれば、孤独感に強くなると言えます。それでは前頭前野の機能を高めるにはどうすればいいのでしょうか?
前頭前野は何か物事を遂行しようとすれば、たいていは関与しています。計画を立てて、何かに集中して、我慢してやり続ける、それを繰り返す、つまり途中で簡単に投げ出したり、勝手気ままに行動したりしないで、真摯に物事に取り組んでいれば前頭前野を鍛えることになりそうです。成功体験というのも、経験に対して報酬を得るという行為であると同時に、このような前頭前野を機能を鍛える面も大きいと言えます。
さて、様々な前頭前野の鍛え方があると思いますが、僕が効果が特に高いと思うのが新しいことに積極的にチャレンジすることです。それも今までの自分だったらあまり手を付けなかった分野に挑戦することがお勧めです。
なぜなら、新しい分野に取り組むことは、慣れないために集中する必要がありますし、最初のうちは思い通りに行かないでしょうから我慢する必要もあります。考えたり注意することが多いのです。そして、それを上手くやり通せば自信にもつながります。
そんなに難しいことや時間がかかることをしなくても、普段はスーパーで買い物をするのを商店に変えて、そこの店員さんと話してみるとか、出勤路を変えてみるとか、そのような簡単なことでも良いのです。孤独感で苦しんでいるなら、家に閉じこもって済むことではなく人と接する内容にすれば、
孤独感で苦しむような人ですから、おそらくそんなに最初から周囲となじむことはないと思います。それを失敗と捉えずに、外に向かって行動を起こしたこと自体を評価してほしいと思います。そのような行動を繰り返した時に、自分に大きな変化が起こっていることに気づくでしょう。
参考記事:「自分の殻を破りたい人へ」2019年8月15日更新
他者のために尽す
孤独感を減らすためにもう1つ有効な方法が「他者のために尽す」ことです。誰かから必要とされたり、感謝された時に満たされた気持ちになったことはないでしょうか。遠くの被災地のボランティアに若者たちが進んで行くのも、それが他人のためだけではないことをどこかでわかっているからでしょう。
すなわち、親切で寛大に行動すれば、社会的に受け入れられ、社会とつながっているという健全な感覚が得られるが、利己的で反社会的に振る舞えば、身体的な衰えと社会的孤立のひどい痛みを招く。
(引用:「孤独の科学」河出書房新社.P277より)
しかし、この「他者に尽す」が見返りを求めたものであると、その性質は孤独感を緩和するどころか、ますます強いものにする危険性を秘めています。何か仕事で他人を助けた時と、道で見知らぬ困った人を助けた感覚では大きく違うと思います。前者は報酬が前提の関係であり、後者はそのような利害関係が存在しない状態です。
何か報酬を求めて行動を起こした場合、報酬で満たされないと満足が得られないばかりか、他者に対する不満が募ります。それに報酬が得られたとしてもそれは孤独感を埋めるものにはなりません。
「見返りを求める」という行為について難しいのは、それを本人が自覚していないということも多く見られるためです。他人に無償で援助しているつもりでも、他人の好意を得ようとしたり、良好な関係を築きたいという期待が潜んでいると、それはそこで見返りを求めている行為になります。それは人間として自然な心情だという意見もあるかもしれません。それについて否定するつもりはありませんが、少なくてもそこで純粋な他者に尽す行為のような満足は生まれず、いつまでもどこか満たされない気持ちが続きます。「こんなに尽しているのにわかってもらえない」という苦しみが余計に生まれ、かえって孤独感は募っていきます。
そのような見返りを期待する気持ちを隠しても、直感の鋭い相手にはすぐにわかります。下心がある異性からのアプローチがわかるというのもそれと一緒です。それなら、いっそのこと素直に気持ちを表出していた方が楽なのではないかと思うのです。
SNSは孤独感を減らすのか?
1990年代後半から一気に普及したインターネットは、SNSという新しい人と人の交流の手段を生み出しました。SNSとはSocial Networking Service(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の略で、インターネットを通じて人の交流を支援するサービスのことです。
「インスタ映え」という流行語が表すようにその影響は大きく、現在はSNSのために現実社会の人間の行動が生み出されるような状態です。部屋の中にいても世界中の人々とつながれる環境が作り出されたわけですが、SNSは孤独感を埋めてくれるのでしょうか。
人間や動物が孤独に対して、不安や恐怖を生み出すように進化してきたことは以前の記事でお話ししました(参考記事「孤独と生きるために ①イントロダクション」)。その長い年月で遺伝子に刻まれた孤独を解消する方法は実際に他人とともに過ごすことでした。身体のふれあいや、相手の表情を読み取ったり、耳で言葉を聞く中で相手の気持ちを考えたり、それらは実際に人と接する中でしか生まれません。
SNSは人との意思伝達はいくらか可能にしますが、それは完全なものではありません。サプリメントは栄養価をある食品と近いものにできても、食品そのものにはなれません。それと同様に人間の本来の交流(少なくても今まで培ってきた方法)とSNSは似て非なるものです。そのようなSNSに浸っている人は一見孤独と無縁なようでも、強い孤独に苛まれている可能性があります。それは前頭前野の機能を低下させて、あるいは社会との適合を阻害するかもしれません。
インターネットの利便性を否定するわけではありませんが、人間がこれまで気が遠くなるような長い年月をかけて身体に作ってきた形が、時代環境が変わったからといってすぐに適応できるとは限らないのです。
少なくてもSNS万能論には危惧を覚えるべきでしょう。
まとめ
これら1つを用いて解決すれば、それは楽だと思いますが、苦しんでいる人がそのように簡単に孤独を克服できるとは思えません。実際にはこれらの方法を組み合わせて対処するのが現実的だと思います。
例えば、孤独の原因が過去の強いトラウマにあるとしても、それを全て精算するのは容易ではありません。それを軽減させつつ、新しいことにチャレンジしながら人間の幅を広げて、時には人助けをしてといった具合に、総合的に昨日より少しでも成長した自分になれたら良いのではないかと思うのです。
繰り返しになりますが、孤独を感じること自体は正常な心の働きです。それと無理なく付き合っていく方法をそれぞれ考えて、上手く身につけていくことが大切に思います。
引用・参考文献
1)ジョン・T・カシオポ、ウイリアム・パトリック(著)、柴田裕之(訳)「孤独の科学」河出書房新社.2010
2)ショーン・エイカー(著)、高橋由紀子(訳)「幸福優位7つの法則 仕事も人生も充実させるハーバード式最新成功理論」徳間書店.2011
3)加藤諦三「自立と孤独の心理学 不安の正体がわかれば心はラクになる」PHP研究所.1988
4)倉成央「”この自信”を持てばうまくいく 努力がすぐに結果になるたった1つのルール」大和出版.2013
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