コミュニケーションを円滑にする大切な初歩

人間の悩みの原因を考えると、そのほとんどが人間関係に行きつくのではないでしょうか。そしてトラブルというのは(全てではありませんが)、原因をたどると何らかのコミュニケーションの不具合で起こるように思います。

僕は理学療法士という仕事をしています。病気やケガで身体に障害を持った人にリハビリを行う仕事です。勤務先も病院、施設、在宅(患者様のお宅)など様々な場所を経験し、患者様だけでなく、同じリハビリの仕事をしている人、医師、看護師、介護士など仕事柄、多くの人と会ってきました。

その中で、他人との関係が上手く築けない人が時々います。仕事の能力と関係なく、コミュニケーションが上手くできないのです。人間ですから相性があって、どんな人でも合わない人は出てくるのですが、そのような人はことごとく人間関係を悪くします。

その原因はひとつではないと思うのですが、よく感じるひとつの原則を今回は取り上げたいと思います。

ネットで「フィンランド パーソナルスペース」と検索すると、いくつかのサイトが出てくるのですが、フィンランドのパーソナルスペースの取り方が特に広いことが最近、少し話題になっています。

パーソナルスペースというのは、他人に近付かれると不快に感じる空間のことで、パーソナルエリア、対人距離とも呼ばれます。例えば、行列に並んでいる時の前後の間隔やベンチに座った時の隣の人との間隔も、このパーソナルスペースが反映されます。これは心理面も大きく関連していて、例えば家族であればピッタリくっついていても問題なくても、嫌いな同僚とは少し距離が空いていても隣に座りたくないということがあげられます。

また、文化や社会慣習も大きく関連していて、上にあげたフィンランドは、個人の問題ではなく、もともと距離感を広く空ける習慣があるらしいです。反面、中国やインドは距離感が少し近いと(ネットで見た限りでは)されています。

このパーソナルスペースというのは物理的なものだけでなくて、精神的なものにもあると僕は考えています。「あなたにそんなこと言われたくない」というのは、これがうまくいっていない時に起こるトラブルです。物理的な距離と同じように精神的にも相手が望む距離感があって、それが適切に保たれていると相手は安心を覚えます。それが言葉遣いや話す内容に関わってきます。それを考えずに杓子定規にあらゆる人と接すると、ある人は不快な感情を抱くということになります。

人間の心理にはその人のアイデンティティやトラウマもあって、それは触れられたくない部分です。そして、厄介なことに人それぞれでその内容は違います。また、不合理なことに特に理由もないのに「あの人ならいいけど、この人には言われたくない」ということも平気で存在します。美人やイケメンなら言われても良いというのも、残念なことですが現実に存在します。

さらに言うと、距離感を縮めることが先天的に上手な人もいます。上司にため口を言っても全然問題にならず、自然な人が職場にも1人か2人いるのではないでしょうか。自然にコミュニケーションの機微や最適な間がわかっている人と言えます。普通の人やコミュニケーションが苦手だと思っている人はそのような人は参考にせず、慎重に距離感を測った方が良いでしょう。

付き合いが長くなってくるにしたがって、許される範囲も広くなるのが普通ですが、核心部分はいつまでも触れられたくない場合もあります。僕の後輩は患者さんの服を褒めたら、後でクレームが来たということがありました。その時の理由は「自分では見すぼらしい服だと思っていて、それに触れられたくなかった」ということでした。この例えの場合は少し予測するのが難しいと思ったのですが、教訓として得たのは何が相手を不愉快にするか分からないということでした。温厚な人があることを言われたら猛烈に怒り出したということもよく聞く話です。相手との距離感を考えて接することはコミュニケーションの基本と言えます。

そして、相手がのぞむ距離感を保てるようになったら、その上で状況に合わせて距離感を縮めたり離したりできると、コミュニケーションや交渉事でより良く関係を進められるでしょう。しかし、コミュニケーションが苦手だと思っている人は、相手との精神的な距離を考えて接することから始めると良いと思います。

その他の人間関係を壊してしまう原因についても、いずれ機会を見て書いていきたいと思います。

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兼業作家。2023年4月『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(国書刊行会)上梓。歴史全般が興味の対象ですが、最近は大正~昭和の文化、芸術、演劇、映画、生活史を多く取材しています。プロフィール写真は愛貓です(♂ 2009年生まれ)。よろしければTwitterのフォローもお願いします。(下のボタンを押すとTwitterのページに移動します)。